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【書評】『愛の自転車』ペール・J・アンデション著、タカ大丸訳

 □『愛の自転車 インドからスウェーデンまで最愛の人を追いかけた真実の物語』

 ■ままならぬ人生切り開く

 ほこりをかぶっていた地球儀を棚からおろしてルートを確認し改めて驚愕(きょうがく)した。インドからスウェーデンまで、オンボロ自転車に乗って愛する人に会いに行ったインドの青年がいたというのだ。地図もビザも十分な所持金もなしに山や砂漠、そしていくつもの国境を越えて。これはフィクションでも絵空事でもない、今から約40年前の実話である。

 インド人青年PK(ピー・ケー)はカースト制度が根強く残っている国で、その階級にさえ入らない最下層のさらに下、先住民の村の出身である。それ故に幼少期から受け続けた差別は壮絶であり、読んでいて何度も心臓をわしづかみにされるような場面の数々である。差別の深い沼が本の至るところに潜んでいる。

 しかし、PKの支えとなったのは、生まれたときに村の占星術師が告げた「色に関わる仕事をする」「結婚相手は遠い国からやってくる」という予言だ。その仄(ほの)かな明かりを胸に成長していく。そして、実際彼には絵心があったのだ。村を出てニューデリーの美大へ進学、学費稼ぎだった肖像画描きが運命の相手を導く。スウェーデン人の旅行者・大学生のロッタと出会いひかれ合い結婚式をあげるが、帰国した彼女と離れ離れとなってしまう。

 そこで彼は持ち金を自転車に換え彼女を追う決意をする。国境で幾度も振り出しに戻されそうになるが、自身の肖像画描きの武器に救われる。ロッタの手紙の一文にもある「あなたならば鉛筆で人の心の中に入っていけます」の通り、彼の絵とひたむきな愛は出会った人を次々と味方にしていくのだ。ついに運命の相手と再会したPKはもう孤独ではない、誰かに従うだけの人生でもない。差別も国境も乗り越えて、しっかりと新しい大地に立っている。

 PKのエピソードはどれも奇跡の連続だ。この本が世界15カ国でベストセラーとなり現在ハリウッドで映画化が進行しているというのもうなずける。

 だが私が何度もうなずいたのは、差別への疑問に対し少年のPKに言った母親の言葉「そのうち、きっとよくなるから(略)」「お前自身と周りの人に対してずっと誠実であり続けるならね」なのである。(徳間書店・2200円)

 評・中原かおり(詩人)

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