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【ザ・インタビュー】音楽の世界 なるべく前方に 松任谷正隆さん新刊「おじさんはどう生きるか」

5年分の新聞連載が書籍に。「週1回のネタには苦労しなかった」と話す松任谷正隆さん(本人提供)
5年分の新聞連載が書籍に。「週1回のネタには苦労しなかった」と話す松任谷正隆さん(本人提供)
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 年齢を知って驚かされる著名人の一人に違いない。

 「常々30歳でオジさん、60歳でおじいさんと考えてきた。70近くになってオジさんはおこがましい。立派なおじいさんですよ」 

 オンライン取材、パソコン画面越しに見る風貌は、働き盛り世代そのもの。ただ希代の音楽プロデューサーも、今秋には70歳を迎える。「おじさんはどう生きるか」(中央公論新社)は今春まで5年間、マナーをテーマに新聞連載したエッセーをまとめたものだ。

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 新幹線の座席を倒すときに断りは必要か否か。ひとまわり上の同業者から敬語を使われる居心地の悪さ。鍋料理を囲む相手で“じか箸”が可能か、取り箸が必要かの差とは。なかには妻であり、音楽パートナーでもある松任谷由実さんのトイレットペーパー使用量に疑問をもった…なんて踏み込んだ内容も。ユーミンさんに怒られません?

 「ウチのかみさん、寝る前の読書が習慣だけどぼくの本は見ないんです。あっ、でも以前出した『松任谷正隆の素(もと)』が枕元に置いてあってギョッとしたか。内容については何も言ってなかったけど“文章はうまいね”とかなんとか…。立体的に書けていないから、好きではないんですけどね」

 エッセーなどは読むこともあるが、長い小説は手に取らないという。句読点の打ち方を含め、好むリズムになっていないと内容が入ってこないから-との理由が音楽家らしい。楽曲を魅力あるものにするように、身の回りのささいなことを読者の共感と、少しの反論を誘う文章に仕上げた。

 連載を開始した5年前に比べ、確実に時代が変わっているという印象を持つという。「置いてけぼりにあっている感じがある」とも。置いてけぼりは1980年代にも感じた。スネアドラムの響きをよい音で録音したいと試行錯誤していた頃、米ロックバンドTOTOなど海外から新しいデジタルの音作りが入ってきて愕然(がくぜん)とした。「腰を軽くして、新しい音楽にも接しないとダメ」と痛感。それが「シティポップ」と称される洗練されたジャンルの確立につながった。

 「ボクが作るものは最先端の音楽ではない。20代は列車で例えれば前方車両にいた感覚があったかもしれないが、8号車くらいが居心地がいい。最新のヒットチャートの音がいいと思えないときは15号車まで下がっているとも感じるが、(音楽業界という)列車に乗っていることが大事。それも、なるべく前のほうにいたい。情報がリアルに感じられるから」

 こんな貪欲な姿勢が“若いオジさん”でいられる秘訣(ひけつ)か。

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 最も優秀な車を選定する「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の選考委員を長く務め、試乗するテレビ番組に出演する自動車評論家の顔も持つ。それだけに、高齢者がブレーキを踏み間違えて起こす事故には心が痛む。「止まるにはアクセルを離せばいい、と頭では分かっているが、アクセルをブレーキだと信じているから慌てて強く踏んでしまう。そこを理解しないと、踏み間違い事故は説明できない」と高齢者の立場も示し、「免許返上を考えるときがくるかも」と。

 新型コロナウイルスは音楽界にも多大な影響を与えた。今年、41回目を迎えた由実さんの苗場コンサートでも、生物としての人間の弱さは認めたうえで死生観を感じさせる演出を組み込んだという。

 「コロナの影響で配信ライブが市民権を得ましたけど、ライブ自体はなくならないし、さらにおもしろくなっていく。以前から音楽業界は縮小する-といわれてきたが、音楽の聞かれかたが変わっただけ。一つのジャンルが飽きられても、また新しいものが出てきますよ」

 おじさんは飽くなき志を持ったまま、音楽の世界で生きていく。

3つのQ

Qジョギングが好きとか

週に1回、1時間くらいだから6~7キロ走る。心身ともフレッシュでいたいので

Q試乗含めてハンドルを握った自動車の台数は?

1000台から3000台の間かな。格好いいのはボロい車。見た目が(乗る)人間に勝たないところがいい

Q台所に立つ機会が増えたとか

家にいることが多くなったかみさんを見て、これは大変だと。パスタやオムレツ、カレー、すき焼きなども作った

(文化部 伊藤洋一)

     

 まつとうや・まさたか 昭和26年、東京都出身。4歳からクラシックピアノを習い、学生時代にバンド活動を始め細野晴臣、林立夫らと「キャラメル・ママ」を結成。その後アレンジャー、プロデューサーとして松田聖子、ゆず、いきものがかりなど、多くのアーティストの作品に携わる。著書に「僕の散財日記」「職権乱用」「僕の音楽キャリア全部話します」など。

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