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【本ナビ+1】学習院大教授 中条省平 少女マンガ史の必読文献『一度きりの大泉の話』

学習院大の中条省平教授
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 『一度きりの大泉の話』萩尾望都著(河出書房新社・1980円)

 萩尾望(も)都(と)が「大泉サロン」のことを書き下ろした12万字の回想録だといえば、マンガファンならずとも読みたくなる。そして、その読後感は衝撃のひと言だ。今後、日本の少女マンガの歴史を知るための必読文献となるだろう。長年心に秘めてきた事実を解き放つ、作者の精神の気迫に圧倒される。

 昭和44(1969)年、20歳でマンガ家としてデビューした萩尾は、実家のあった福岡県から上京し、ほぼ同年代のマンガ家・竹宮惠子と知りあう。萩尾は、竹宮から一緒に暮らしてマンガ家の仕事をしようとの提案を受け、東京都練馬区の大泉にあった2階建ての家で共同生活を始める。ここに若い女性マンガ家たちが集い、のちに「大泉サロン」と呼ばれるようになる。

 萩尾や竹宮ら、昭和24年前後に生まれた少女マンガ家たちが華々しい活動を展開し、日本の少女マンガを革新したことから、彼女たちを「花の24年組」と称し、大泉サロンがその革新の母体であったとしばしば語られる。いまや大泉サロンは、石ノ森章太郎、藤子不二雄、赤塚不二夫ら男性マンガ家が集った「トキワ荘」と並ぶもう一つのマンガの聖地になりつつあるといってよい。

 しかし、萩尾は、自分が竹宮とともに大泉サロンでマンガ革命に参加した、という事実を否定する。いや、むしろ自分はそこから排除された存在であり、大泉は、自分にとって永久凍土に封印しておきたい時間と記憶の死体なのだ、というのである。

 そのことを明かす細かい出来事の連鎖は、本書で実際に読んでいただきたい。それは、第三者による要約を許さない、あまりにも生々しい事件なのだ。この本を書かざるをえなかった萩尾の心中を思うと胸が苦しくなりそうだ。

 『〈アメリカ映画史〉再構築』遠山純生著(作品社・6930円)

  知る人ぞ知る映画研究の精鋭がついに最初の本を出した。700ページを超える大冊で、そこにこめられた情報量は途方もない。そして、私たちが漠然と知るアメリカ映画の歴史を、まったく違うものに変えてしまう。そうか、新しい映画はこんなふうに作られてきたのか! という激しい感動にさらわれる。今年の映画本のベストになるだろう。

  ちゅうじょう・しょうへい 昭和29年、神奈川県生まれ。パリ大学博士。著書に『反=近代文学史』『恋愛書簡術』、翻訳にジッド『狭き門』など多数。 

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