「神田川」でも歌われた日本の発明クレパスは夢の絵画材料
新型コロナウイルスの影響で、外出自粛にテレワークが続きます。在宅時間が増えたこの機会に「クレパス画」を描いてみませんか。部屋も汚れず臭いもつかない。それでいて油絵のような重厚さもあり。ことし3月に65歳になった私も、今回、初挑戦します。サクラクレパス(大阪市中央区)で歴史や特質を学び、第一人者の教室にも入門。目指すは「第31回 全日本アートサロン絵画大賞展」(産経新聞社など主催、サクラクレパスなど共催)の入選! いや、出展! (田所龍一)
目指せ入選!
「クレパス画、描いてみたくないですか」
全日本アートサロン絵画大賞展を運営する産経新聞事業部の担当者から声をかけられた。昭和54年にサンケイスポーツに入社して以来、産経新聞運動部時代も含めて取材対象はほとんどプロ野球。その私になぜ。どうやら大阪芸術大学卒業というのが理由らしい。とはいえ籍を置いたのは芸術学部文芸学科。もちろん絵画は描いたこともない。
「素人が挑むのが、いいんですよ」
分かったような、分からないような…。
サクラクレパス本社を訪ねた。今年創業100周年。併設された美術館「サクラアートミュージアム」には大正初期のクレヨンやクレパスなどが並ぶ。
清水靖子主任学芸員による講義が始まった。昭和54年に東京の女子美術大学を卒業し、5年間イタリアで学んだ画家先生である。
「歴史や特質、技法を学ぶことは重要です。絵の描き方を教えると個性が消える、という人もいますがそれは間違い。クレパスだから描けるものがある。使い方を知ればその人の腕前は60%上がりますよ」
話を聞くだけでうまくなったような気持ちになる。
夢の結晶
まずは歴史から。大正時代初期、小学生たちは色鉛筆や絵の具を使って絵を描いていた。当時の色鉛筆はすぐに折れた。絵の具も皿の中に固めたものを水で溶かして塗っていたため色彩に乏しかった。

「子供たちにのびのびと絵を描かせてやりたい」。そんな声が起こる中、大正5年頃、米国から入ってきたのがクレヨンだった。硬くて画用紙に定着しやすく、艶がありベタつかない。教育用の描画材料として全国に普及。10年5月29日にサクラクレパスの前身「日本クレィヨン商會」が誕生した。
クレヨンにも、硬くて滑りやすく、線描が中心となってしまう問題点もあった。一方、欧州からは軟らかく、紙上で色を混ぜたり伸ばしたりできるパステルも伝わった。だが、絵の具が剥がれやすく、作品には定着処理が必要だった。
クレヨンのように後処理に手間がかからず、パステルのように自由に混色でき、油絵のように色を重ねて画面が盛り上がるような画材を-。そんな夢を詰めて、14年に誕生したのがクレパスだ。
クレヨンの「クレ」とパステルの「パス」を取って名付けられた「クレパス」は、サクラクレパスが商標登録した商品名。クレパスの一般名はオイルパステルで、先生は「それじゃ、情緒も何もないわね。やっぱり『神田川』はクレパスじゃないと…」と笑う。
昭和48年、南こうせつとかぐや姫が歌った「神田川」が大ヒット。NHKから同年の「紅白歌合戦」への出場依頼がきたが、2番の歌詞で「24色のクレパス買って」とあることから「商品名はまずい」とNHKから「クレヨン」に修正することを求められたが、かぐや姫側はこれを拒否。紅白出場を辞退した-というお話だ。
力加減が難しい
先生の指導が始まった。なんと、薄水色のクレパス1本全部を画用紙一面に塗り込め-という。惜しげもなくポキッと2つに折り、それを寝かした状態で一心不乱に塗り込む。
「ウチの新入社員研修でもやるのよ。どれだけ軟らかい物なのかを知るために。力を入れ過ぎると割れて粉々になってしまう。力加減も大事ですよ」
塗っているうちに小さなカスがいくつもできた。払い落そうとすると、「カスも親指を使って、紙に押し込むようにむらなく塗り込んでください。画家の中にはクレパスを削って、指で描く人もいるぐらい」。
格闘すること50分。画用紙一面に塗り込むことができた。光沢があり、しっとりとした手触り。
「これがクレパスの軟らかさ、特質です。では、技法レッスンに入りましょう!」
先生の目が一段と輝いた。
◇
記者が出展を目指す「全日本アートサロン絵画大賞展」は、平面絵画を対象とした全国規模の公募展だ。絵画を楽しむ人に発表の場を提供しようと、画材・文具総合メーカーであるサクラクレパスが、創業70周年記念事業の一環として平成3年に創設した。初心者からベテランまで、絵が好きな人なら応募資格は問わない。
入賞作品は東京・六本木の国立新美術館に展示される。審査の特徴は、予備審査なしで、審査員がすべての作品を直接作品を見ること。今回、サクラクレパス創立100周年記念の特別賞として「審査員特別賞」も追加される。
審査員は大阪市立美術館館長の篠雅廣さん、アーティストの日比野克彦さん、銅版画家の山本容子さん、女優で二科会会友の岸ユキさん、画家の絹谷幸二さん、画家の山本文彦さんの6人。問い合わせは同事務局(06・6910・8807)。