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【この本と出会った】『小説 機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ 新装版』 30年経てなお新しい想像力 作家、漫画原作者・堀田純司

『閃光のハサウェイ』
『閃光のハサウェイ』
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 『機動戦士ガンダム 閃光(せんこう)のハサウェイ』は平成元年刊行。だからこの本との出会いは自分がまだ20代の学生のころになる。当時は作中に登場する若者のナイーブな心理がとても繊細に感じられた。

 「機動戦士ガンダム」というアニメはご存じだろうか。初作は昭和54年に放映され、いわば時代の「共通体験」となった作品。現代までさまざまな関連作品が製作されているが、その中でも「宇宙世紀」という、初作の世界観、登場人物をひき継いだ一連の作品がある。この『閃光のハサウェイ』も、初作の監督である富野由悠季(よしゆき)氏自身が執筆した、続編的な小説だ。

 刊行されて30年以上になるが、今でも読み続けられ、全3巻累計で130万部を発行。この5月についに映画版も公開される。なぜこれほどまで長い命を保つのか? それは「なぜガンダムがこれほど長く人気コンテンツとしてあり続けるのか?」という問いに通じるが、ひとつの(シンプル過ぎる)答えは「富野監督はじめスタッフたちが、その時代その時代において新しいもの、刺激的なテーマに挑んできたため」だと思う。

 初作「機動戦士ガンダム」が、宇宙移民者たちが起こした、自治権獲得のための戦争を描いたことは広く知られている。それは従来の娯楽アニメとは異質な世界観だったが、のちの昭和60年に放映された続編「機動戦士Zガンダム」では、先の戦争で勝利した地球連邦軍がリベラル派と極右組織に分かれ、内戦に突入する。現代でいえば、たとえば移民政策をめぐって穏健派と強硬派が内戦を起こしたような状況だ。

 そして63年に公開された映画「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」では、ジオン公国の残存勢力が地球に小惑星を落とし、憎悪の連鎖を根本から断ち切ろうとした。作中の戦いは国家と非国家組織の「非対称の戦争」であり、これらの作品は、現実の歴史を大きく先取りしていた。

 『閃光のハサウェイ』の舞台は「逆襲のシャア」の12年後。これまでの戦争は、世界をよりよくすることはなかった。温暖化を契機に環境が悪化する地球だが、そこに自由に行き来できるのは連邦システムのインサイドにいるエリートのみ。アウトサイドの大多数は強制的に宇宙に送られる。富者の子は富者、貧者の子は貧者。個人の努力では運命を変える手段はない。強固なシステムを破壊するために、主人公のハサウェイ・ノアはテロ組織に身を投じるしかなかった。彼は「ガンダム」最新鋭機のパイロットとなり、連邦政府と敵対する。

 映画化を機に読み返したが、古さを感じる物語かというとまったくそんなことはない。階級が固定された社会の絶望。それはむしろこれから来る世界のビジョンにも感じられる。

 30年以上たってあらためて出会い、なお新しい。作者が作品世界を本気で実在すると捉えている。そんなすごみを感じる。(富野由悠季著/KADOKAWA・上・中・下各880円)

【プロフィル】堀田純司

 ほった・じゅんじ 昭和44年、大阪市生まれ。上智大文学部卒業。作家、漫画原作者として活動。主な著書に『僕とツンデレとハイデガー』、シナリオを担当した『まんがでわかる妻のトリセツ』などがある。

 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』はガンダム初作監督の富野由悠季氏が平成元年に刊行した小説。近年になって映像化が実現し、今月21日に劇場版が公開予定。

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