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【書評】『考える、書く、伝える 生きぬくための科学的思考法』仲野徹著

■一生ものの学び得られる

 誰もが自分を不幸だと思ったり、ツイてないと考えることはあるだろう。そんなときに助けとなるのは科学的思考である。

 本書ではこんな例が引き合いに出される。無人島に漂着したロビンソン・クルーソーは自分を励まそうと、良い点と悪い点の表を作る。たとえば「恐ろしい無人島に流されて助けられる希望がまったくない」ことは不運だけど、「他の仲間たちのように溺れずに生きている」ことは幸運だというように。

 考えに行き詰ったとき、複雑そうに思える物事を書き出し、単純な要素に分けて考えてみると見えてくるものがある。このように「できるだけ単純に考える」ことこそ、科学的思考法のいちばん優れたところだと、著者は主張する。

 検索すればすぐに知識が出てくる現代に必要となるのは、学び方、考え方を知ることではないか。アインシュタインの「教育とは、学校で学んだことをすべて忘れたあとに残るもの」という言葉を実践しようと大阪大学医学部の名物教授である著者は考えた。

 そこで健康と医学をテーマに大学の新入生に向けた「学問への扉」というゼミの記録を基に科学的思考の入門書としてまとめたのが本書である。受講生たちは文理ごちゃまぜ、コロナ下でオンラインで行われた授業である。

 とはいえ、何かを学ぶとなると身構えてしまうが、大阪弁の柔らかい語り口で、実際に行われた授業記録に沿って構成されるため平易に読み進められる。単純さが大切ゆえに、ロジックも小学校高学年くらいから中学生の子供に説明したらわかってもらえる明快さが必要だと説く。これが著者の教師としての、そして科学者としての熟練の技である。やさしそうに見せかけて、得られる学びは一生ものだ。

 この思考法が身につけば、科学的な問題を考えたり論理的文章を書くことに役立つのはもちろん、生活が楽しくなり、だまされにくくなると著者は保証するのだから読まない手はない。すべて忘れたあとに残るものとは、物事を整理して自分で考え抜く方法。これこそ今の混沌(こんとん)とした時代に必要な武器ではないだろうか。(講談社+α新書・990円)

 評・河合香織(ノンフィクション作家)

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