PR

ライフ ライフ

【ビブリオエッセー】ある少年にかけた言葉 「琥珀の夢-小説鳥井信治郎」伊集院静(集英社文庫)

 1カ月に2回、高校教師を退職された先生を囲んで読書会を開いています。先生はいま80歳。私たち生徒も70代以上がほとんどで毎回12~13人、その回数も170回を越え、いつも脱線しながら和気あいあいです。

 先生はいつもB4用紙3、4枚のレジュメを作り、内容の一部を取り上げ、著者の生い立ちや他の作品、時代背景やご自身の感想などを書いてくださいます。今回は小説『琥珀の夢』。サントリーの創業者、鳥井信治郎の一代記です。明治、大正の大阪で洋酒の製造、販売に乗り出した起業家でした。上下2巻の長編ですがワクワクしながら一気に読み終えました。

 かつての船場から山崎まで、舞台はほとんど大阪、関西一色なので親しみがわきます。物語は大阪の両替商の次男に生まれた信治郎の丁稚奉公時代から始まります。そこの主人と国産の本格葡萄酒をつくることを夢みて、試行錯誤を繰り返すのです。

 信治郎はこうと決めたらひるまない信念の人でした。これは鳥井家の家族の物語でもあります。赤玉ポートワインからやがて本格的な洋酒へと事業を成功させていく過程に好きだった連続テレビ小説『マッサン』の主人公、竹鶴政孝が登場し、さらに興味をもちました。

 序章で信治郎はある丁稚の少年にこんな言葉をかけています。少年は葡萄酒の色に見とれていました。「ええ品物を作るために人の何倍も踏ん張ったんや。踏ん張っても、踏ん張っても、まだ足らんと思うて踏ん張るんや。そうしたらあとは、“商いの神さん”があんじょうしてくれはる」と少年の頭をなでます。

 これこそ「やってみなはれ」の心でしょう。その少年が松下幸之助氏でした。幸之助氏は生涯、この日のことを忘れなかったそうです。

 兵庫県西宮市 豊田永子 77

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~金曜日の夕刊1面に掲載しています。「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ