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【書評】『アクティベイター』冲方丁著 息もつかせぬ展開で圧倒

 ある日の夕刻、日本の領空を侵犯し、突如、中国空軍の最新鋭ステルス爆撃機が飛来した。やがて羽田空港に着陸した機から降りてきたのは、中国人民解放軍の若い女性パイロットで、亡命を希望しているという。彼女はさらに、日本側の現場責任者に、あの爆撃機には核弾頭を積んでいると打ち明ける。

 冲方丁『アクティベイター』は、冒頭から息もつかせぬほどの緊張感と切迫感、加えて圧倒的な熱量の物語展開で読者を魅了する国際謀略サスペンスだ。

 混迷と複雑化が増す現代の国際・社会情勢の中にあって、今や明白な敵や悪は見えづらくなっている。諜報の世界には、そもそも善悪など存在せず、正義は勝者が後付けで記すきれいごとにすぎないのだった。政治情勢にしても、表面に見える事象の背後には、一般人が想像もつかないような個々の思惑が渦を巻いている。それはまさしく情報と謀略の坩堝(るつぼ)であり、水面下には意外な局面が隠されているに違いなかった。さらにはIT技術の進化により、情報はネットを通じて瞬時に世界を駆け回り、もはや国境など無きに等しいものとなっているのだった。

 本書は、こうした現代社会を構成する現実と虚構のメカニズムに、深く、鋭く、問答無用で切り込み、迫真のドラマを作り上げていく。女性パイロットの扱いに対して、警察庁警備局、外務省、経産省、防衛装備庁、出入国在留管理庁…が、それぞれに指揮の実権を握ろうと画策し、火花を散らし合う展開もそのひとつだろう。登場人物の人間的側面と、情報・謀略の非人間的側面の両者が巧みに描かれるのだ。その背後にはもちろん、中国やアメリカの影が垣間見えてくる。

 そしてもうひとつ。作者は山田風太郎賞を受賞しているのだが、ここに描かれるアクションシーンは、彼の〈忍法帖〉シリーズを彷彿(ほうふつ)とさせる異様な迫力と愉(たの)しさに満ちている。特異な能力と技量を持った凄腕のプロたちが次々と登場し、物語を彩っていくのである。これがとにかく奇想天外で面白い。しかも熱く、興奮する。こんなアクション描写もちょっと珍しい。いや、だからこそほかにはない、極上エンターテインメント作品に仕上がっているのだった。(集英社・1900円+税)

 評・関口苑生(書評家)

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