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スーツで仕事モード テレワークの服装は… 鹿間孝一

 「断捨離(だんしゃり)」を思い立った。ヨガの断行・捨行・離行に基づく造語で、ものへの執着を捨てる生き方という。春の衣替えの時期でもあり、ちょうどいい。以前から、もういらなくなったので処分しようと思いながら、捨てられないものがあった。スーツとネクタイである。

 新聞記者は比較的、服装が自由だが、それでもスーツにネクタイをする機会は少なくなかった。退職して2年になる。いつか、また必要な仕事に就くかも、というのが執着だったかもしれない。衣装ケースにしまったままの10着ほどのスーツを出し、30本以上あるネクタイを並べた。

 人生の指南書にしてきた池波正太郎著「新編 男の作法」(サンマーク出版)のネクタイの項にこうある。

 「鏡を見て、本当に他人の眼(め)でもって自分の顔だの躰(からだ)だのを観察して(略)これだったら何がいいんだということを客観的に判断できるようになることが、やはりおしゃれの真髄なんだ」。そして「自分に合う基調の色というのを一つ決めなきゃいけない。そうすれば、あとは割合にやりやすいんだよ」。

 こんなおしゃれがしたかったのだが、目の前のネクタイは色も柄もばらばらで、流行遅れだ。以前、就職した息子にやろうとしたら断られてしまった。

 そのうちの1本に思い出がある。女子社員が多い関連会社に出向を命じられ、真っ赤なネクタイを締めて初出社した。「第一印象が大事だから、女房に〝勝負ネクタイ〟で、と言われて…」。緊張気味のあいさつが結構受けて、3年後に本社に戻る際に赤いネクタイをプレゼントされた。

 黒いワイシャツしか着ない後輩がいた。取材相手に印象づけるのが目的で、スーツも黒系統。個性的と悪趣味は紙一重だが、いつしか「黒シャツ」のあだ名で通用するようになったから、狙いは成功したようだ。

 スーツとネクタイは、着替えれば仕事モードに入ることができるサラリーマンの制服だった。かつては地味なグレーが多く「ドブネズミ」と揶揄(やゆ)されたが、企業戦士はおしゃれは二の次で、日本の経済成長に邁進(まいしん)してきたのだ。

 コロナ禍でテレワークが広がっている。リタイア組としては、在宅勤務やリモート会議の服装が想像つかない。ON、OFFのスイッチはどうするのだろう。テレワークは「働き方改革」にとどまらず、服飾革命も含めて、大きな変化をもたらすのではないか。

しかま・こういち 昭和26年生まれ。社会部遊軍記者が長く、社会部長、編集長、日本工業新聞社専務などを歴任。特別記者兼論説委員として8年7カ月にわたって大阪本社発行夕刊1面コラム「湊町365」(産経ニュースは「浪速風」で掲載)を執筆した。

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