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【ビブリオエッセー】母に送った「大変」メール 「水滸伝」北方謙三(集英社文庫)

 久しぶりにあの感覚がよみがえった。子供の頃は手に取る本が別世界へ連れて行ってくれたものだが長く忘れていた感覚だ。しかし『水滸伝』のページを開くと車窓の街並みは消え、900年も昔の中国に私はいた。

 そして任命もされていないのに自分が反乱軍の参謀にでもなったつもりで、味方の窮地には何か打開策はないかと懸命に考え、ああ、この勝負は次のページに書かれているのだとわれに返る。この繰り返しで精根尽き果てた頃、王進先生の住まいに場面は変わり、息をつく。

 時代は北宋末期、12世紀の中国。有名な古典『水滸伝』を語り直したこの「北方水滸伝」は原典からの独自な創作も加え、オリジナルの人物も登場する。

 民を苦しめる政府を倒すため立ち上がった宋江、魯智深、武松らおなじみの好漢108人。「替天行道」の旗のもと、梁山泊に集結する。その一人一人の行動と思いがスピード感あふれる展開と今風のセリフ回しで描かれ、まるで同じ時代を生きているように感じたのだ。

 私の心は梁山泊とともにあったから、楊志が死んだ時はあまりの衝撃で何も知らない母に「大変なことが起こった」とメールを送った。事情も分からずさぞ心配したことだろう。

 この感覚を母にも味わってほしいとの一心だったが、母は前から中国の昔話に興味はないと言っていたので「第一巻の半分でもいいから。面白くなければやめていい」と頼んだ。

 その母がみごとにハマった。『水滸伝』全19巻を終えると続く『楊令伝』全15巻、『岳飛伝』全17巻と北方さんの「大水滸伝」シリーズ51冊を読破したのだ。中国古典に魅了されたらしい。一方の私は推しメンロスから立ち直れず、いまだ『水滸伝』に留まっている。

 堺市堺区 玉城屋蕭子(たまきや・しょうこ) 47

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