ライフ ライフ

米とスポーツで 豊かで健やかな生活を

 みずみずしい稲穂が実る国、日本。米食を中心に海や山の幸を取り入れた和食は、古来の習わしの継承や長寿を支える栄養バランスが評価され、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている。静岡県沼津市出身で、「白米と焼き魚で育った」という、アテネ五輪陸上男子ハンマー投げ金メダリストの室伏広治スポーツ庁長官。そして、農業を見つめ続け、朝昼晩のご飯とバレーボールを愛する全国農業協同組合中央会(JA全中)の中家徹会長。『スポーツと米の魅力』をテーマに、食と運動の大切さや米を中心とした日本型食生活のすばらしさなどについて語り合った。

茶碗(ちゃわん)で食べる1杯のご飯の魅力から、玄米や米粉を使った料理など、米の幅広い可能性について語り合った室伏長官(右)と中家会長=1月28日午後、東京都千代田区のスポーツ庁(三尾郁恵撮影)
茶碗(ちゃわん)で食べる1杯のご飯の魅力から、玄米や米粉を使った料理など、米の幅広い可能性について語り合った室伏長官(右)と中家会長=1月28日午後、東京都千代田区のスポーツ庁(三尾郁恵撮影)
その他の写真を見る(1/4枚)

健康支えるスポーツと食・農

――長官は五輪に4回出場、ハンマー投げ選手として活躍してきた。どのような食事を心がけてきたか

室伏氏 「現役時代は毎日、米は必ず食べ、動物性タンパク質や野菜、果物などバランスを意識してきた。海外遠征時は、やはり米やみそ汁が食べたくなる。そういうときは、日本食店を探していた」

中家氏 「中高生のときバレーボールに打ち込んだので、スポーツと食の大切さは知っているつもりだが、世界で活躍するアスリートは、食事の面でコンディションを保つのは難しいのでは。炊飯器を持参する選手もいると聞く」

室伏氏 「マラソンのような競技では、『必ず白米』というふうに、エネルギー源にこだわる選手もいる。私は食をルーティン化せず、現地の伝統料理にも挑戦していた。栄養学に基づいた食事は重要だが、食は人生を豊かにしてくれるもの。その土地ならではの食文化を知るのも楽しい」

――栄養・睡眠・運動の大切さを訴えている

中家氏 「知育、徳育、体育、そして食育。JA全中では30年以上、バケツを使って稲を育てるキットを全国の小学校などに贈っている。物を育て、作り、自然を知る。食について考えてもらえるよう、さまざまな仕掛け作りをしている」

室伏氏 「規則正しい生活の基本は、食事と運動と睡眠。今は新型コロナウイルスの感染拡大によって家で過ごす時間が長くなり、運動不足を懸念している。スポーツ庁としては、安全に楽しく運動してもらえるよう呼びかけていく」

左)むろふし・こうじ 昭和49年10月生まれ、静岡県出身。中京大学体育学部卒業。同大大学院体育学研究科博士課程単位取得退学後、復学して博士号取得(体育学)。2004(平成16)年アテネ五輪陸上男子ハンマー投げで金メダル。令和2年10月から現職。右)なかや・とおる 昭和24年12月生まれ、和歌山県出身。中央協同組合学園卒業。紀南農協代表理事組合長、和歌山県農協中央会会長、全国農協中央会副会長などを経て、平成29年8月から現職。
左)むろふし・こうじ 昭和49年10月生まれ、静岡県出身。中京大学体育学部卒業。同大大学院体育学研究科博士課程単位取得退学後、復学して博士号取得(体育学)。2004(平成16)年アテネ五輪陸上男子ハンマー投げで金メダル。令和2年10月から現職。右)なかや・とおる 昭和24年12月生まれ、和歌山県出身。中央協同組合学園卒業。紀南農協代表理事組合長、和歌山県農協中央会会長、全国農協中央会副会長などを経て、平成29年8月から現職。
その他の写真を見る(2/4枚)

食習慣と自給率の改善

――米の消費が減少し続けている

中家氏 東京五輪が開催された昭和39年ごろは、一年間の消費量は一人あたり約120キロだったが、平成30年は約55キロで半分以下に。食の選択肢が多様になったり、手軽さも重視されるようになった。食生活が変わってきたのだろう」

室伏氏 米の消費以前に、文部科学省の調査でも朝食を食べない小学生が増加している。身体は大きく成長しているのに、体力テストをするとその身体を動かす力が出ない。食習慣を見直す必要があると感じている」

――生産量も減少している

中家氏 毎年約10万トン減少している。新品種の米も登場して本当においしいが、消費が減退しているため、需要と供給のバランスが崩れないよう、作付けを見直さなければならない一方で、何も作付けをしなければ農地が荒廃するという課題にも直面している。

――食料自給率にも影響する

中家氏 日本の食料自給率は約38%で、6割強を海外に依存している。不透明な世界情勢にもあるなかで、今後も安定的に食料を確保するには、国民が必要とし消費する食料は、できるだけその国で生産するという“国消国産”の考え方が重要になってくる。国内農業の実態をふまえれば、その中心はやはり米だろう。

稲をバケツで育てるキットなど、子供たちに向けた食育の試みについて話す中家会長(左)と室伏長官
稲をバケツで育てるキットなど、子供たちに向けた食育の試みについて話す中家会長(左)と室伏長官
その他の写真を見る(3/4枚)

スポーツと米食のコラボ

――日本伝統の食生活の魅力とは

室伏氏 米は手軽な〝ファストフード〟。炊飯器や土鍋でさっと炊いて、いろいろな楽しみ方ができる。おにぎりにすれば持ち運びも簡単。旬の食材を使った料理と組み合わせ、春夏秋冬の恵みを堪能できる」

中家氏 日本人に最も合った食生活は、米を主食とする食生活だと思う。世界でもトップの長寿国になった要因でもある。朝、昼、晩の3食、きちんとご飯を食べてほしい。そのために、現代に合わせた米の食べ方を提案していきたい

――今、米食を見つめ直す大切さとは

室伏氏 米は時間と手間をかけて育てられ、健康を支える糧になる。人は身体を動かさないと衰えていく。実りを作り上げていくプロセスは稲作もスポーツも同じ。米の消費促進だけではなく地方創生などの分野で、農業とスポーツのコラボレーションを実現してみたい」

1俵60キロ 日本食のシンボル

米俵を担いで昼休みにトレーニングをしたときの室伏長官(スポーツ庁提供)
米俵を担いで昼休みにトレーニングをしたときの室伏長官(スポーツ庁提供)
その他の写真を見る(4/4枚)

 スポーツ庁長官室には、米俵が積み上げられている。漂うわらの香り、中には福島県産米。入室する職員や来客に室伏長官はいつも問いかける。「米俵、持ってみませんか?」

 就任から約5カ月。動かしたり、持ち運ぶことができた人はいる。しかし、肩の上まで担ぎあげたのは室伏長官だけ=写真。ひょいっと肩に乗せ、担いだままスクワット…。中家会長は「なかなか持てない。1俵60キロ。本当に重い」と笑う。

 なぜ長官室に米俵なのか-。室伏長官は就任後、農業をはじめとする第一次産業など、人々が身体を使って生きてきた文化に思いをはせた。時代は変わり、主要産業も変遷した。仕事や日常で身体を動かす機会は減った。だからこそ、スポーツは大切であり、レクリエーションとしての運動が生活に浸透してきた。

 室伏長官は、スポーツや身体を動かすことの原点は食であり、重い米俵は日本の食のシンボルだという。「米一粒を大切にするよう教わってきたが、背景には大変な労働があった。食への意識を高め、スポーツについて考えるきっかけにしてほしい」と指摘する。

 中家会長も「次世代を担う子供たちにも、米を通して、さまざまな経験を重ねてほしい」と話した。

提供:一般社団法人 全国農業協同組合中央会

ランキング