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【書評】『新しい「日本の歩き方」』山谷えり子著 共感する「旅の豊かさ」

 テレワークやオンライン会議などの“新しい生活様式”に旅行、とりわけ観光旅行はどうしてもなじみにくい。交通手段が発達し、観光産業が充実する現代では、旅行は多くの人にとって長期にわたる我慢がしにくい身近な遊興でもある。昨夏から秋にかけて、コロナ禍がまだ続いているのに「Go To トラベル」で多くの人が旅行に出かけて観光地がにぎわったのは、観光の魅力がオンラインではなくリアルな非日常体験にあることの何よりの証しだろう。

 全世界のコロナ禍が完全収束するまで海外旅行がお預けならば、それまでは本書の著者が言う「日本がわかる」絶好機に当たる。観光旅行の本質は日常からの脱却にあるのであって、目的地の遠近は本来、関係ない。海外旅行ガイドブックの定番『地球の歩き方』が昨年刊行した「東京編」は、都内や関東近郊でも売れ行き好調だという。「知っているようで知らなかった」身近な街への潜在的な関心が高い表れではないだろうか。

 外出さえ自粛が求められるステイホームの時期は、オンラインや書籍を通じて次の旅の予備知識を蓄える準備期間でもある。下調べをしない行き当たりばったりの旅も楽しいが、歴史を知れば古道に先人の足音を感じ、文学を読めばその舞台で一節をそらんじ、映画やドラマを見ればロケ地に立って名場面に思いをはせることができる。

 この点、宮沢賢治ゆかりの北上川(岩手県)に関するエピソードに触れた著者は「事前情報も興味もない者にとっては」ただの川でも「宮沢賢治が大好きな人にはいろいろなモノが見え」るのだろうと推し量る。あふれる好奇心をもとに旅を重ねないと理解しにくいこの感覚が、本文の随所から伝わってくる。

 国会議員の著者は学生時代、北海道を長期周遊し、旅費が尽きたユースホステルでアルバイトをして帰りの旅費をためたという。20代半ばにはフリーライターとして渡米し、YWCAをフル活用しながら取材旅行を続けた。平成期にバックパッカーとして国内外を歩いた評者には、「旅は言語化できない豊かさがある」という巻頭の一節が、楽しさも苦労もないまぜの一人旅の経験を凝縮した至言に感じられ、強く共感できた。(扶桑社・1400円+税)

 評・小牟田哲彦(作家)

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