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【書評】『失われゆく仕事の図鑑』永井良和、高野光平他著  職業の盛衰と時代に感慨

 「キーパンチャー」「遣り手婆」「貸本屋」「カップヌードルの自動販売機」、そして表紙にもなっている「花売り娘」-。本書は、昭和30~40年代に生まれた9人の著者が、今やほとんど見かけなくなった121の職業、場所、機器などを紹介したノスタルジーあふれる図鑑である。

 どの項目にノスタルジーを覚えるかは、読者の年齢によるだろう。45年生まれの私は、「屋上遊園」のページの「どこでも一番人気は10円硬貨ひとつで動く乗り物だ」という解説にうなずき、「ちり紙交換」の項では拡声器から流れていた「まいどおなじみちり紙交換でございます。ご不要になりました古新聞、古雑誌…」のフレーズを一言一句正確に覚えていることに気がつき、苦笑した。

 「屋上遊園」は、百貨店がそれまでの木造建築から高層ビルに建て直されるようになった頃、「眺望」による集客を目的に屋上を開放したのが始まりだったという。「ちり紙交換」は、古紙が高騰した50年代には月収50万円という業者もいたが、60年の大暴落によって、都内を走っていた約3000台のうち半数が廃業したそうだ。

 このように本書は、それぞれの仕事の盛衰の理由について、時代背景なども踏まえながら詳しく教えてくれる。

 こうした客観的事実に加え、著者たちの個人的な思い出がかなり自由に語られており、読みものとしても楽しめる。例えば、これを「仕事」と呼んでいいのかということはさておき、「押し売りがわが家に来たのは、昭和30年代の終わりだっただろうか」で始まる「押し売り」についての解説は、その時の光景のみならず、子供心に刻まれた不安や好奇心、押し売りが跋扈(ばっこ)した社会的条件まで描かれ、思わず引き込まれる。押し売りは「いまは、もういないのかというと、姿を変えて生き残って」おり、悪質化しているという意見にもおおいに納得。

 “裏稼業”や場所、機器まで取り上げたことにより、本書は広く20世紀の文化、風俗を俯瞰(ふかん)することができている。甘美なノスタルジーだけでなく、過ぎ去った時代を理解するための手がかりがふんだんに盛り込まれた一冊である。(グラフィック社・2000円+税)

 評・田中ひかる(歴史社会学者)

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