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【書評】『日曜日は青い蜥蜴』恩田陸著 味わい深い「書物との戦い」

 恩田陸さんといえば小説と思いきや、本書はエッセー集である。10年前に刊行された『土曜日は灰色の馬』の続編で、来年には『月曜日は水玉の犬』の出版も予定されている。「曜日+動物」という奇抜なタイトルは、それだけで一作品のように印象的だが、本の内容とは直接関係ない。残る火曜日から金曜日のタイトルも、著者にはすでに心づもりがあるという。

 本書に収められているのは、雑誌に連載された読書日記を中心に、さまざまな書評、映画や舞台の評論、文庫解説など。著者が言うところの「鑑賞系」エッセーである。

 例えば、漫画家・吉田秋生さんの『海街diary』の最初の印象はこんなふうに記されている。「未だに日本のTVドラマや家族小説に強い影響を及ぼし、呪縛をかけているといってもいい向田邦子の正当な後継者がこんなところにいたのか」と。これには膝を打つ思いがするし、この項につけられたタイトル「あまりにも昭和的で日本的な」の向こうには、小津安二郎、成瀬巳喜男といった日本映画の系譜も見える気がする。

 山本周五郎『ながい坂』の項では、著者の本名がこの小説に登場する少女にちなんでつけられたことが明かされる。山本周五郎賞の受賞は著者の運命だったのか。後に少女は苦界に身を落とすのだが、それをも著者は「将来、小説書きという苦界に身を落とすところまで予言していたのかもしれない」と自身に重ねる。作品の世界に著者個人のエピソードが交錯し、なんとも芳醇(ほうじゅん)で味わい深い。

 「鑑賞系」エッセーの極意は、「いかに愛を持ってその作品のいいところをうまく伝えるか」にあるという。取り上げる本のジャンルは、著者の好みでミステリ、ファンタジー、ホラー、SFが若干多め。それ以外にも、動物の生態学の本、料理本、ビジネス書、漫画、政治や宗教に関する書物、児童書など。およそ読まないものはない。

 読書日記の記述は切れ味鋭く、文庫解説は独自の作家論、作品論となるよう、疲労困憊(こんぱい)するまで力を注ぐ。「果てしなき書物との戦い」は苦しみが勝るというが、行間からは読む喜びがあふれ出る。筋金入りの読書家としての姿が浮かび上がる。(筑摩書房・1700円+税)

 評・青木奈緒(文筆家)

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