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【美村里江のミゴコロ】少し記憶をなくした話

 新型コロナウイルスの後遺症について、嗅覚や味覚、呼吸障害、脱毛が特に恐れられているようだが、高熱のインフルエンザにも後遺症が出ることがある。

 幼稚園生の冬、私はインフルエンザにかかって高熱を出した。以下、断片的に覚えていること。

 まずストーブの前、布の山の中で揺れている自分の姿だ。迎えが来るまで上着を着て暖かいところに座らせてもらっていたのだろう。そこへクラスメートたちが自分の上着を次々とかぶせてくれたのだと思う(優しいなぁ)。

 しかし、私の体は少しも温かくならずガクガクと震え続け、次の記憶は車内の体温計に飛ぶ。ここでいつもと違う表示が出た。「42度3分」。エラーかと思い親に見せたところで、また記憶が切れている。

 この次は1週間以上休んでから、久しぶりに登園したときに飛んでいる。げた箱で上履きを履いていると「あ、リエちゃんだ!」とワラワラ集まってくるクラスメートたち。「だいじょうぶ?」「いっしょにブランコ乗ろう!」と腕を引かれたが、私の内心はパニックに近かった。

 親しげにほほ笑んでくる子たちが、ほとんど誰なのかわからなかったのだ。

 かろうじて自分のげた箱やロッカーの位置、3歳からの幼なじみとよく遊んでいた親友は分かったが、他の子の記憶がものの見事にすっ飛んでいた。

 42度の超高熱により脳のタンパク質が変異し、後遺症として記憶が一部消えてしまったのだ。ここから卒園までの約2カ月、子供ながらに周囲に心配をかけまいと、愛想笑いと知ったかぶりで空気を読み続けたので、結構大変だった。

 違和感が強かったのが、周囲が伝えてくる「リエちゃん」像だ。高熱前の私は、率先して新しい遊びを考案したり、男の子とも女の子とも仲良く、運動会のダンスでは最前列でお手本をやり、大変快活で主体的な性格だったらしいのだ。

 「私ってそんなタイプだったのか」と悩ましかったが、一番驚いたのは好きな子についてだ。

 「リエちゃんもK君好きだもんね、バレンタインあげるの?」と聞かれて固まった。私の好きなのは多分Y君だった気がするが、空気を読んで皆からモテているK君を自分も好きということにしていたのか? 果たして真相は…。

 次週、そんな中でのバレンタインの波乱に続く。

【プロフィル】美村里江(みむら・りえ) 昭和59年、埼玉県出身。女優としてドラマや映画に多数出演する一方、エッセイストとしても活動。平成30年に「ミムラ」から改名。著書に『たん・たんか・たん』(青土社)など。

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