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【書評】『わたしの好きな季語』川上弘美著 奥深い言葉の背景に感慨

 短歌に取り組み始めて5年目に入り、昨年は初歌集を上梓(じょうし)。それでもまだ「自分は短歌に向いてないかも」という不安を抱えていたが、本書を読んで少し明るい視点を得た。

 どちらかといえば男性の小説家の方が好きなので、著者の作品を自分が好むのを前から不思議に思っていた。とても女性的でやわらかい文章のうち、何かが心をつかむ。

 今回、その正体がわかった。生物学科専攻だったそうで、生き物全般へのまなざしに愛があるのだ。「“妙な言葉”が好きで、食いしん坊、虫を手で捕まえられる」という自分との共通点も見つけて喜びつつ、この3点はそのまま詩歌制作にも有用なのだと気付かされた。

 季語と、それにまつわる短めのエッセー。その季語の入った俳句の紹介96編。知らない言葉も多く全編楽しかったが、なんといっても虫の項目をご紹介したい。「てんとう虫・ががんぼ・蚯蚓(みみず)・つくつくぼうし・鈴虫・蟷螂(かまきり)」と6編もあるのだ。普段避けられやすい虫たちは、俳句の世界では季節の担い手として大活躍している。

 翅(はね)わつててんたう虫の飛びいづる 高野素十/がゝんぼの脚置き去れる卓の上 石塚友二/つくつくぼーしつくつくぼーしばかりなり 正岡子規

 川上さんはそれぞれに、てんとう虫の重さが切手1枚と同じくらいであること、ががんぼの道案内で迷子にならず済んだお話、十数年前からセミの種類別に「鳴きはじめ記録」をつけていることをつづっている。

 主に『歳時記』から集められたらしい、変わった季語群も当然面白い。「北窓開く」「絵踏」「薄暑」「競馬(くらべうま)」「業平忌」「夏館」…。

 一方、未知の言葉を愛でるだけではない。例えば「雪間」は積もった雪が溶け出し地面がまだらになった状態を指す春の季語。これは雪国出身者でない自分には使いこなせない、と川上さんは書く。季語は「言葉の背後にある感情や記憶、歴史的な意味や場所の連想などの、全部を含むもの」なのだという。だから憧れていても詠めないものもある。

 ルール的に短歌に季語は不要だが、その奥深い背景を借りて作歌したい気持ちになった。(NHK出版・1700円+税)

 評・美村里江(女優、エッセイスト)

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