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【ビブリオエッセー】変わらぬ親心への共感 「吉野弘詩集」(ハルキ文庫)

 いま思えば父はしつけには厳しかった。学校の連絡帳にはいつも「女らしく、良識ある人間に育ってほしい」と書き込んでいたのを覚えている。良識って何?と思いつつ、小学校から高校までおとなしく優等生ぶって過ごしていた。タガが外れたのは大学時代だ。

 政治色の強い校風に染まり、べ平連のデモに参加し、ギターの音色に魅せられ、父の反対を押し切り、足を組んで楽器を奏でるギター部に所属した。縁あって結婚。良妻賢母の四文字が頭をよぎる中、夫の転勤も度重なり、毎日の生活、子育てにかまけ、人生を深く考えようともしなかった。そんなある日、吉野弘の詩集で「祝婚歌」に出会った。

 「二人が睦まじくいるためには/愚かでいるほうがいい/立派すぎないほうがいい/立派すぎることは/長持ちしないことだと気付いているほうがいい/完璧をめざさないほうがいい /完璧なんて不自然なことだと/うそぶいているほうがいい」。読みながらそれまでの緊張が解けていく感じがした。難しい言葉は一切ないが、人生の神髄に触れた感動を覚えた。

 「夕焼け」「I was born」も、詩人の人間への優しさ、哀しさ、死生観が絶妙な表現で迫ってくるが、長女が生まれたときの詩「奈々子に」には心を揺さぶられた。

 「お父さんが/お前にあげたいものは/健康と/自分を愛する心だ。」「ひとが/ひとでなくなるのは/自分を愛することをやめるときだ。」「自分を愛することをやめるとき/ひとは/他人を愛することをやめ/世界を見失ってしまう」。私が子供や孫に伝えたいメッセージそのものだった。「良識」とは少し異なるかもしれないが、この詩を知って、時代は変われど親心は普遍的ものだと改めて実感した。

兵庫県川西市 粕谷陽子 72

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