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【ビブリオエッセー】「神を演じる」時代への警告 『絶滅できない動物たち-自然と科学の間で繰り広げられる大いなるジレンマ』M・R・オコナー著 大下英津子訳(ダイヤモンド社)

 ダム建設によって唯一の生息地を破壊され、保育器のような飼育ケースで露命をつなぐキハンシヒキガエル。駆除や都市化で生息域が狭まり、激減したフロリダパンサーは繁殖に必要な遺伝子多様性を得るため近縁のピューマとの交配で遺伝的救済が試みられた。

 あるいはアフリカの政情不安が密猟を増大させ、今や風前の灯のキタシロサイ。タイトルを一瞥すると、この本は絶滅危惧種を紹介して環境保護を訴える内容かと思ったが、そんなものではなかった。

 もちろん著者は種の保全に取り組む現場をレポートしている。ところが科学の進歩はもはやその先を目指していた。iPS細胞でクローンをつくり、ゲノム編集でよみがえらせる…。「種の復活」である。まさに映画『ジュラシック・パーク』の世界だ。「脱絶滅」という言葉すら生まれている現在は種の保全も科学で解決できると言わんばかりだ。しかし、それは人間の思い上がりではないのかと著者は問いかける。

 今や人類は実質的に地球を支配している(と思いこんでいる?)。人類の大きな影響力から「人新世」という言葉もある。開発と資源の収奪で大きな環境負荷を地球に与えてきた。

 多くの絶滅危惧種はその現れだ。だからこそ環境を保全する義務があるのだが果たして科学の力でどこまで干渉するのが「自然」なのだろう。そもそも手つかずの自然がどれだけ残されているのか。そこで禁断の疑問に至る。「いっそ、絶滅してしまったほうが…」。

 海洋生物学者を悩ませるタイセイヨウセミクジラの謎に満ちた生態は人為的な影響と気候変動に揺れる地球の意思そのものではないのか。もはや哲学の域に達しているといえる本書は、科学と環境について大きな一石を投じている。

 大阪市生野区 徳山寿夫 55 

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