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【ザ・インタビュー】時間超える経験のつながり 写真家・石川直樹著「地上に星座をつくる」

辺境の地から原稿を送るのも一苦労だったと振り返る石川直樹さん(著者提供)
辺境の地から原稿を送るのも一苦労だったと振り返る石川直樹さん(著者提供)
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 写真を撮る傍ら、旅先で体験したことや感じたことを7年間にわたってつづった文章が1冊にまとまった。書名のキーワードに選んだのが「星座」。

 「月1回の連載で1カ月のハイライトを書き留められる。読み返すたびに一つ一つの経験が時間を超えてつながり、新しい『星座』をつくる。たくさんの経験がつながっていまの自分があるということですね」

 忙しくても連載なら可能だ。そのときの動きも出せる。とはいえ、辺境の地から送るのは尋常ではない。

 「電気がないので、原稿をノートにメモし、パソコンに打ち込んで一瞬のうちにメールで送る。ソーラーパネル電源で充電できるのも晴れたときだけ。衛星電話は通信料が高く、送ったらすぐに切断します」。極寒の地では指の感覚がなくなるので手を交互にズボンのポケットに入れて片手でメールを打った。

 だが、どんなに厳しくともかけがえのない体験だ。「思いだして書くのは難しい。直後の鮮やかな経験を書こうと思った。自分の中にしみこんでいくとしても記憶は薄れるので書いておかねばならない」と話す。

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 旅先は、アジアから米大陸、オセアニア、知床半島から沖縄と広範囲に及ぶ。

 「アジアは体を使う。五感を開かないといけない」。僧侶の河口慧海(1866~1945年)を知ってチベットの奥地を目指し、バングラデシュで混濁したガンジス河口を体験した。自然や歴史との対話も多い。ペルーでミイラが発見された高地を目指せば、北極圏でシロクマの生態を追う。オーストラリアでアボリジニーの古い壁画を見て、サハリンではオホーツクの流氷の源流を探った。

 だが、遠征で多いのはヒマラヤ。エベレストは2度登頂している。悲願は果たせていないK2登頂だ。「50日近いテント生活で天候に左右される。無理をすると命を失いかねない」。標高はエベレストに次ぐが、歩く距離が最も長く、危険が多い。

 高地を目指したくなるのは、「心身ともに消耗し尽くす高地生活で体を使い果たしてゼロにし、それをまた元に戻す。日常では絶対に得られない“生まれ返す”という感覚がいい」からだ。ただ、高地生活は繰り返すことで慣れても低地で元に戻すのが実は難しい。

 日が昇りテントが熱くなると起き、夜は電気がなく夜更かしもできない。自然のリズムに慣れて帰ってくると、大きな脱力感に襲われる。「メールの返信をしたくない。時間が守れない。元に戻るのに1カ月はかかる」。騒然とした低地での順応は高地と逆に感覚を閉じてしまうのではないかとまで思った。

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 写真は高校生のときにインドとネパールの旅に出て撮り始めた。それ以来、自然と続いている。驚きと発見が大きいほど旅の密度も高まり、写真を撮れないと目の前のものをじっくり見られなくなると感じる。

 「旅と写真は分かち難く結びついている。自分と切り離すのは難しい。写真は情報量があり、経験を引き出してくれるツール。自分が反応したものを撮っておく。一つの経験が別の経験とつながる。それが旅を面白くしてくれる。20代には気づかなかったものを、あとでつないでくれることもあります」

 現地の暮らしも前のめりで撮影する。改めて訪れるとその変化にも気づく。「チベットは中国化しているというか、ラサではチベット語が聞かれなくなった。汚い店も並んでいたが、普通の店に変わった」という。

 18歳のとき、カヌーイストの野田知佑(ともすけ)さんを訪ねた。「野田さんの本が面白くて『どっかに行け』と背中を押される感じがした。あのパワーを若い人たちに伝え、外に向かう後押しをしたい。自分も著作で少しでも力になれればと思います」

Qコロナ禍での活動は

ふだんからみるとどこにも行けていない。トークイベントや写真展の開催、絵本の出版など臨機応変に対応している

Qいま行きたいところは

ブラジル。再開されたサンパウロのジャパン・ハウスで私の写真展「JAPONESIA」展が始まり、巡回予定もあるので

Q新たに挑戦したいことは

宇宙飛行士。資格条件が壁になっているが、宇宙に行ったら、やはり地球の写真を撮りたい

(文化部 蔭山実)

      

 いしかわ・なおき 昭和52年、東京都生まれ。人類学や民俗学に関心を持ち、世界を旅しながら作品を発表している。日本写真協会新人賞などを受賞し、今年は『EVEREST』『まれびと』で日本写真協会賞作家賞に輝いた。著作も『最後の冒険家』(開高健ノンフィクション賞受賞)など多数。旅の経験を幅広く分かち合うため、展示会やトークイベント、ワークショップも行っている。

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