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【書評】『みがわり』青山七恵著 二転、三転のどんでん返し

 確か、この幾年かは、「2020年」はまぶしい輝きを持って存在していたはずだ。それがどうだろう。まるで時空がゆがんでしまったような一年として暮れていこうとしている。

 この本『みがわり』も、その境目がわからなくなるような感覚が似ている。

 誰が、何が本当なのかという好奇心が牽引(けんいん)力になってページを繰る手が止められない。トリックでもなく、ミステリーでもなくひとつの家族をめぐる小説なのに、章を追うごとに二転、三転し、最後にどんでん返しが待っている。

 20代の駆け出し小説家の律はファンを名乗る女性・九鬼梗子(きょうこ)から亡き姉の伝記を書いてほしいと頼まれる。その姉・百合は律とうり二つ、生き写しのようだとも言う。子供の頃に両親を亡くし、姉妹で生きてきた梗子にとってかけがえのない姉に似ている自分、金持ちの九鬼家のお抱え作家のポジション、梗子の魅惑的な夫と美少女の娘…断る理由はない。

 律は百合の過去を取材し想像し書き起こしていく。しかし、姉妹の確執や周りの人間たちの秘密も次第に暴かれていく。

 いつも明るく面倒見の良い姉とその庇護の下にいた地味な妹は、共に架空の物語を作ることで支え合い成長してきたはずだったが。

 一人の平凡な教師だった百合の自伝は、偉人の伝記でもなく、自叙伝でもない。しかも生前に一度も関わったことのない人間が書く自伝だ。百合の死を再生させるということの尊さと不安定さ。

 無鉄砲だが憎めない律が何度も書き直す伝記小説が現実世界に差し挟まれ、その関係性に混乱しつつ、ついにラストで真実を理解したときには、「こういうことだったのか!」と思いっきり膝を打ってしまった。

 はたして「みがわり」とは、誰が誰の身代わりだったのか。

 家族という血の濃さをつなげていくためにはどれだけ長い時間が必要なのか。人間とはなんてやっかいな生き物なのかが、向日性ある筆致でぐいぐいと描かれている。

 海外旅行がままならない今、青山ワールドの旅にひたる正月休みもありかもしれない。(幻冬舎・1700円+税)

 評・中原かおり(詩人)

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