PR

ライフ ライフ

【朝晴れエッセー】お母さんの新聞・11月20日

 わが家の新聞をめぐる光景は写真のように焼き付いている。

 二十数年前のある日、妻が新聞を読んでいると、3歳の次女が寄っていき、「これは、お父さんの新聞」と言って取り上げ、「お母さんの新聞はこっち、はい」と言って、折り込み広告を手渡した。

 幼い次女には、新聞と広告の区別はなく、母親のしぐさをよく見ていたのだ。新聞をほとんど読まず、広告だけを取り出して隅から隅まで真剣に見ていた姿が、次女の脳裏に鮮明に焼き付いていたのだろう。

 私が「お父さんの新聞、お母さんにも見せてやって」と言うと、「ダメ」とかたくなに言う時期が続いた。

 妻も3人の幼子を抱え、新聞をゆっくり読むどころではなかったかもしれないが、次女の言(げん)を前にショックを受け、新聞をよく読むようになった。

 しばらくすると、次女も妻から新聞を取り上げることはなくなった。

 一方、長女は5歳、誰に教わるでもなく絵を描くことが好きであった。もちろん傍(はた)目(め)には何を描いているのかはっきりとはわからない。でも、本人は、このときが何をおいても機嫌がいいのである。ときには黙って、ときには何か口ずさみながら、広告の裏に描いていた。

 そして、絵が描きたくなると決まって妻に言うのである。「お母さんの新聞ちょうだい」。お母さんの新聞は長女のキャンバスにかわっていった。

阿部雅俊 64 前橋市

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ