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【ビブリオエッセー】家族の数だけ、それぞれの事情 「家族の標本」柳美里(角川文庫)

 若い頃の私は友人から取材魔と揶揄されるほど人の話を根掘り葉掘り聞く癖があった。もちろん他意はなく純粋な好奇心からだったが、無作法で失礼な行為だったと反省している。電車の中や喫茶店で周囲の人の話に聞き耳を立てるのも好きだったが、この本を読み、柳美里さんも私と似たところがあるように思った。

 『家族の標本』はさまざまな家族のエピソードを短くまとめたスケッチ集である。実在する家族がモデルという。それぞれの家族に事情があり、気になるドラマがある。当然、幸せな家族ばかりではない。後半には柳美里さんの家族の話も語られていて、こちらも興味深い。

 柳美里さんには『フルハウス』という、80~90年代のアメリカのホームコメディーや十数年前の韓国ドラマと同名の小説がある。フルハウスには幸せあふれる楽しいわが家とでもいった含みがあると思うが、この小説にもとても幸せとはいえない家族が描かれていた。

 『家族の標本』の中の「国際家族年」の一文が印象的だ。1年前に離婚したシンガーソング・ライターS氏の家へ国際家族年(1994年)にちなむイベントのテーマ曲を作ってほしいと2人の女性が訪ねてくる。「ぼくは離婚をしていて家族とは縁が薄いから」と断るつもりだったが説得され、ボランティアで引き受けた。その後、S氏は誰もいない居間でこうつぶやく。「幸福な家族があるっていうんなら、思いっきりハッピイな曲を書いてやろうじゃないか」

 陳腐なネーミングの国際家族年の5月だったか、新聞に「あなたにとって家族とは」というアンケートの結果が掲載されていた。当時は中学生だった長女に質問してみると、少し考えてから「ビミョー」と答えた。

 大阪府八尾市 佐々木祥子 66

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