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【アート・ウォッチング】人々を導く聖なる雲鹿 名和晃平の個展「Oracle」

「Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)」GYRE GALLERYの個展より
「Trans-Sacred Deer (g/p_cloud_agyo)」GYRE GALLERYの個展より
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作品が大集合

 明治神宮(東京都渋谷区)本殿へ通じる南神門をいま、金銀2つの鳳凰(ほうおう)が飾っている。彫刻家、名和晃平の「Ho/Oh」(11月3日まで展示)。京都の仏師らとの協働により制作した木彫漆箔仕上げの作品で、明治神宮の鎮座100年を記念し特別展示されている。

 この他にも、神宮の杜の内外でいま、名和の作品を堪能できる。一つは、境内の「明治神宮ミュージアム」前に置かれた神秘の鹿「White Deer」(12月13日まで)。もう一つが、表参道のGYRE GALLERY(ジャイル ギャラリー)で開催中の個展「Oracle」(オラクル=信託などの意)だ。

「物質に振り付けをする」

 今回の個展では、代表作の一つ「PixCell」から新しい試みまで、9シリーズが一堂に集合。すべて今年の新作で、互いに響き合う構成になっている。「海外渡航が難しくなり、スタジオで過ごす時間が増えれば増えるほど、実験や新しい試みに注力できた」と名和は振り返る。

 人の感覚に訴える彼の作品は、ペインティング一つとっても複雑で一筋縄ではいかない。「Black Field」は一見、黒一色のミニマリスム絵画のようだが、日々変化を伴う作品という。油絵具と特殊な油を混ぜることで、空気に触れた部分から酸化と硬化が進行、シワやひび割れがあらわになってゆく。

 まるで航空写真のような「Dune」も、複数のメディウムや絵の具を混合し、キャンバスに流し広げた作品。乾く速度が異なるなど、物性の違いにより複雑な表情が生み出されるのが面白い。

 さらに実験的なのが「Blue Seed」シリーズ。画面は移り変わるが、映像ではない。紫外線に反応する特殊顔料を塗った半透明の板に、UVレーザーを照射すると、植物の種子をモチーフにした青いシルエットが浮かんでは消える。種子や胚珠が秘めている生命の力、儚(はかな)さを想起させる。

 名和は制作のために、実験を繰り返し、試行錯誤を重ねる。しかしその作品はいつも、自身の作為が及ばない、偶然性を伴う。

 「自己表現はあまりする必要がないと思っている。自分の感覚や身体性は既に物質に投影されている。僕は物質に振り付けするだけ。物質にどんな振る舞いをしてもらうかを考えて、そのために用意していく」

根底に流れる無常観

 鑑賞者から思わぬ反応が返ってくることも。表面をベルベッド状に加工した大小の球体(セル)を組み合わせ、パネルに固定したシリーズ「Rhythm」に、「ウイルスみたい」という声があちこちで聞かれたという。「空間にリズムを与えるというのがコンセプトですが、今は皆がそういう精神状況になっているんだな、と」。同じ作品でも、時代の状況によって感じられ方は変わるのだ。

 京都・二条城で昨年行われた展覧会で、名和は「方丈記」の無常観をテーマに映像インスタレーションを発表した。「地震や大火、疫病や飢饉(ききん)…。方丈記にはこうした災厄も淡々と記され、根底に流れる無常観は今も日本人の中に息づいている。繰り返される災厄も、それが自然の摂理と受け入れ、乗り越えていったのだと改めて思いました」

 個展のハイライトは、金銀の鳳凰と同じ、木彫漆箔仕上げの彫刻「Trans-Sacred Deer(g/p_cloud_agyo)」-通称「雲鹿」だ。神鹿が雲に乗って春日の地に飛来する「春日神鹿舎利厨子」(鎌倉~南北朝時代、14世紀、奈良国立博物館蔵)に着想した作品というが、本家とは明らかに違う。

 「全身を雲でできた鹿が、われわれを導いてくれるイメージです」

(黒沢綾子)

     

 「名和晃平 Oracle」は2021年1月31日まで。入場無料。

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