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【朝晴れエッセー】お団子つき・10月24日

 陽が沈むと虫の音が響いてくる。月が山の端を離れるころ、足音とともに小さな歓声が聞こえてくる。

 旧暦8月15日の宵、大きな袋を手に掲げて、子供たちが近所の家々を訪ね歩く。月見の晩の、お団子つきの始まりだ。

 「こんばんは。お月見のおだんご、つかせてください」

 「よう来てくれたね。突いていってよ」

 大人たちは目を細め、子供たちを迎え入れる。遠い遠い昔から伝わる地域の風習だ。とは言っても昨今では、もっぱら子供たちが好みそうなお菓子を用意している家がほとんどだ。

 今年も陽の沈む前から、薄(すすき)に萩にお団子に、それからたくさんのお菓子を用意して玄関先で陣取っていた。ところが、家々の影が月明かりにくっきり浮かぶころになっても、足音も歓声も響いてこない。

 どうしたのかな。あれこれあれこれ思いを巡らせているうちに、あれかと思い当たった。そして心が重くなった。

 「密」になることなんかないのに。お菓子も手渡すわけではないのに。お月見さえ自粛しなくてはならないのか。子供たちだってがっかりしているだろう。出るのはため息だけとなってしまった。

 ほんとにいつまで続くのだろう。コロナ禍を克服して、来年こそは楽しい歓声に包まれるお月見をしたいものだ。

 風に揺れる薄。空を渡る名月。すだく虫の声。いつもと変わらぬ秋。しかし、元気な声だけが響かない今年の十五夜だった。

中村聖司郎 58 和歌山県紀の川市

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