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【朝晴れエッセー】出勤簿と印鑑・10月21日

 ハンコ文化が見直しを迫られている。どうでもよいことだが、私は印鑑には特別な思い入れがある。

 昭和40年の春に新任教員として赴任した。出勤簿が教頭の広い机の上に置かれていて、出勤すれば押すのである。なかには給与日に事務職員に急(せ)かされてまとめて押印する教員も少なくはなかった。

 まだ職場にもなれないときのことである。教頭席の横にベテランの教務課長が座っていた。

 出勤の押印を終えて振り向くと教務課長が「印鑑は押せばよいのではないのですよ」と笑って言った。「今日も元気で出勤できました。仕事ができて幸せ、と感謝して押すもの」と。そして言葉を継いだ。

 自分の印鑑を示しながら、「丸い印鑑を日に日に角度を変えて押していました。罰があたってねえ、入院しました」。さらに「最近は上下間違わないように、注意して感謝を込めて押している」と。しんみりと言われた。

 転勤しても出勤簿は縦長の長方形であり、小判型でない印鑑ははみ出る。そこでひと回り小さい印鑑を購入した。その後退職までの間、使い続けた。

 退職後もサークルなどの認め印として10年ほど使った。白い印鑑は朱肉の赤がかなり上方までしみ込んできた。

 2年ほど前に妻が救急搬送され入院が2回続いた。病院の入院手続きに印鑑が必要で、いつも持ち歩いていた。

 気が付けば印鑑がない、思いつくところ探したがないままである。妻の身代わりにあの世へ旅立ったのかな。

三原茂雄 77 徳島県松茂町

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