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【朝晴れエッセー】母を纏(まと)う・10月20日

 小柄だった母が遺した着物たち。着丈も裄(ゆき)も短く、そのままで着るのは家族の誰も難しい。膝上に出してはなでる。

 大切にしていた着物にハサミを入れることには、踏ん切りが付かなかった。

 母の想いを大切にしながら、納得のいく利用ができないか。思案した末にたどり着いたのは、最近よく見かけるワイドパンツへのリメーク。

 解いて洗って裁断。まず、中1の孫娘に、母のお気に入りだった黄色と茶色の縞柄(しまがら)の着物で。高1の孫には、黒の紬に赤い被布(ひふ)を差し色に。娘には、御所車の刺繍(ししゅう)が入った紫の羽織で。3人とも背が高く、よく似合った。

 隣に住む長男の嫁さんがこの様子を見ていて、「私も欲しいな」と。地味だけどセンスのいい彼女に合う着物探しは、ためらいを一時忘れさせてくれた。

 薄いグレーの夏物に、桜色の絞りの小花が散らしてあるのを選んだ。「おばあちゃん、この着物よく着てましたよね」と笑顔を。さて、いよいよ私の番。

 ミシンを出したのは何年ぶりだろう。卓上ミシンは手軽だが、足踏み式の音とは重みが違う。

 生活のために洋裁をしていた母。裁ち台の側は、常に私の居場所だった。門前の小僧よろしく、指先の動きが脳裏によみがえる。

 みんなでこのパンツを身につけ、墓前にお参りに行きたい。母は何と言うだろうか。

吉沢孝子 72 茨城県つくば市

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