PR

ライフ ライフ

【書評】『秋吉久美子 調書』秋吉久美子、樋口尚文著 紛れもない「時代の子」

『秋吉久美子 調書』秋吉久美子、樋口尚文著
『秋吉久美子 調書』秋吉久美子、樋口尚文著

 1970年代に鮮烈なデビューを飾り、藤田敏八の『赤ちょうちん』『妹』『バージンブルース』の<三部作>に代表される、ふわふわと捉えどころのない独特の浮遊感で一時代を画した女優、秋吉久美子のメモワール。何よりも驚くのは、映画評論家、樋口尚文が聞き手を務めた丁々発止のダイアローグから浮かび上がってくる彼女の類まれなる聡明さとユーモアだ。  たとえば当時、一般に流布した“元祖シラケ世代のミューズ”という彼女の決定的なイメージを造形した辣腕(らつわん)マネジャーを「ヤマタノオロチ」と喝破。その常軌を逸した執着と嫉妬、愛憎を抜き差しならない<共依存>ととらえ、彼女なしには「女優・秋吉久美子」は存在しなかったと断言する。

 自己をクールに客観視しながら内に巣くう厄介な自己愛をもおおらかに肯定する語り口の魅力はタッグを組んだ監督たちの寸評で最大限に発揮される。前出の藤田の演出をめぐり「普通は強さを鎧(よろい)にするのに、弱さを鎧にしながら、いろんな人のいいところを引き出していたんじゃないか」という指摘は鋭い。

 やはり70年代に『さらば夏の光よ』などの古典的な風合いをもつ端正な青春映画を撮った松竹の山根成之についても「案外ホイホイと軽快に撮っているようで、山根さんの作品は妙に重みが出たり、どろっと見えたりするところがありますね」と作品の核心を射抜いている。

 興味深いのは、漂泊と虚脱感漂った70年代を牽引(けんいん)するミューズともてはやされるよりも、時代と間違えずに切り結びたかったという思いを吐露する中で、連合赤軍・永田洋子の名前を引き合いに出すくだりだ。熱狂や迎合を拒み、自己の精神の領分を守り通そうとするモラーリッシュな姿勢が<シラケ>と見なされたのは皮肉だが、彼女が紛れもない70年代という<時代の子>であった証左でもある。

 評者は、柳町光男の『さらば愛しき大地』で、ダンプの前で義弟の矢吹二朗にお金の無心にきた秋吉久美子が微苦笑する場面が、彼女の全作品でのベストショットと信じているが、本書で「いわゆる演技をしないで、自分をドラマと一体化できた」瞬間だと述懐している。もはや、あっぱれというほかない。(筑摩書房・2000円+税)

 評・高崎俊夫(編集者、映画批評家)

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ