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【書評】『fishy』金原ひとみ著 根底に自分への苛立ち

『fishy』金原ひとみ著(朝日新聞出版・1500円+税)
『fishy』金原ひとみ著(朝日新聞出版・1500円+税)

 「胡散臭(うさんくさ)い」という意味のタイトルは、3人の女性たちの関係に、そしてとりわけそのなかの一人であるユリに当てはまる。「ユリ」が本名なのかもわからない。夫がいて娘がいてと言うが、それも当てにはならない。

 そうした胡散臭さを感じながらも、弓子と美玖はユリとの交友関係を断ち切りはしない。人生観や恋愛観において大きく隔たりながらも、3人はときどき会ってはお互いを傷つけるまで言いたいことを言い合う。

 28歳のライター・美玖、37歳の編集者・弓子、32歳のインテリアデザイナー・ユリが、節ごとに代わる代わる語り手となって各々(おのおの)の物語を語る。

 息子2人を持つ弓子は夫に不倫されており、独身の美玖は妻のいる男と不倫をしているが、そのことで2人の仲が険悪になることはない。前者は人生の中心に結婚と子育てを置き、後者は恋愛至上主義を生きており、そうした異なる価値観を互いに尊重している。

 しかし、どちらの価値観も、自ら考え抜いて選んだものでなく、ただ周りに流されているだけだと小馬鹿にしているユリは、舌鋒(ぜっぽう)鋭く2人を斬る。たしかに、ユリは自分自身のオリジナルな考えを理詰めで語り、そのことばはきついながらも一定の説得力を持っている。だからこそ2人は、多少嫌な思いをしても、困ったときにはユリの意見を仰ぎたくもなる。

 しかし、読み進めるほどにユリは胡散臭くなってくる。それは、周囲に対して彼女がする自分語りの中に、次々と矛盾が露呈してくるからばかりではない。その証拠に、弓子も美玖も、結局は目の前のユリにのみ注目し、その背後にある「正体」などには関心を払わなくなる。

 胡散臭さは読者に対するものであると同時に、しかしそれはユリ自身が自分に感じていることではないか。一人称で語る部分の中でさえ、ユリの正体は明らかにならない。彼女のことばは理屈に理屈を重ねた結果、屁理屈じみる。どんなに考えてもつかみきれない自分というものへの苛立(いらだ)ちがつねに根底にあり、ふとした刺激で暴発する。

 しかし、自分の存在という胡散臭さをめぐって必死にもがきながら生きるユリが、3人の中では最も魅力的に見えた。(朝日新聞出版・1500円+税)

 評・伊藤氏貴(文芸評論家)

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