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コロナは芸術にとって創造の源泉 「創作の秘宝日記」刊行した横尾忠則さんに聞く

横尾忠則著「横尾忠則 創作の秘宝日記」
横尾忠則著「横尾忠則 創作の秘宝日記」

 病にも自粛にも負けず、横尾忠則さん(84)は自らのペースで日々、キャンバスに向かう。コロナ時代の到来にいち早く反応し、「WITH CORONA」シリーズを展開。さまざまなビジュアルにマスクや口のイメージを重ねたユニークなコラージュ作品をほぼ毎日、ツイッターで発表し続けている。旺盛な創作を行う世界的美術家の日記から、1498日分をまとめた『横尾忠則 創作の秘宝日記』(文芸春秋・2700円+税)がこのほど刊行された。その濃密な日常について、コロナ時代と表現について、横尾さんに聞いた。   (文化部 黒沢綾子)

夢と現実のあわいで

 --横尾さんの絵画は虚実が混然一体となって見る者を幻想的世界へ導きますが、日記も夢と現実が交錯し、その境目はあいまいです。既に亡くなっている方にひょっこり会ったり、奇想天外な出来事が起きたり。横尾さんにとって「現実」と「夢」はどういう関係にあるのでしょうか。

 「僕にとって夢も現実の一部として、無視できない要素です。自己は顕在意識と無意識の統合で成立していると思いますので、両者を併置することで自らの思考や行動を確認しています。夢を記述することで、日常にシンクロニシティ(共時性)が起こります。つまり事物の発生は偶然ではなく、全て必然によっておこることが自覚できます」

 --そのシンクロニシティが「僕の創造の核」だと日記で明かされていますね。夜に見た夢の内容を忘れないよう、起きてすぐにメモしたりするのですか?

 「就寝中に夢と共に目覚めることが多いので、その時、夢を意識し反芻(はんすう)するようにします。それでも目覚めて忘れる夢は、価値のないものと判断します。記憶している夢は何時間経っても書けます」

 --最近は「見る夢がだんだん現実化している」一方で、日常が「夢化」してきたと書かれています。

 「従来の夢は突飛な非現実なものが多かったのが、加齢と共に、次第に現実(日常)の延長のような夢に変化してきました。ということは夢の発生源の無意識からではなく、日常感覚がそのまま夢になって現れますので、日常の領域が拡大されたように思います。言い方を変えれば、夢と現実(日常)が入れ替わったように錯覚することがあります。夢でしか経験しなかったことが現実の裂け目にひょいと現れるのです。つまり現実にはあり得ないことが目前に現れるのです」

 --具体的には?

 「例えば死者や光体のような非物質的存在、写真を撮ると見えなかった物が写るのです。このような現象は、すでに昔から作品のモチーフの一部でしたが、今では現実も非現実も区別する必要のないものと認識しています。近い将来、科学が解明して現実の領域を拡大してくれると思います」

孤独な環境も利点に

 --横尾さんは政府が緊急事態宣言を発する前から自粛生活に入る一方、創作については「自粛なし」。「WITH CORONA」作品は既に300点を軽く超えているとか。この本の表紙には1969年頃に写真家の石元泰博さんが撮影した横尾さん-「舌出しマスク」のポートレートが使われていますが、こうしたマスクが過去作品などにコラージュされ、どんどん増殖しています。創作意欲をかきたてるものは?

 「『WITH CORONA』のマスクアートは過去の作品を素材にして、映画、演劇的に見せ方を演出する愉(たの)しみがあります。中にはマスクを描き入れることで未完作品が完成することもあります。このシリーズではコロナを敵対視するのではなく、コロナを受け入れることで共存しています。コロナのネガティブパワーを創造のポジティブパワーに変換する作業です。このようなコロナ禍は芸術にとっては創造の源泉になります。危機的状況こそ芸術が最も豊饒(ほうじょう)をむかえる時期でもあります」

 --横尾さんは日々いろんなジャンルの方と会い、その華やかな交流をうかがい知れるのも、日記の魅力です。しかしコロナ以降、人と直接会うことを極力抑えているとのこと。創作に影響はありますか?

 「没外出、人に会わない習慣はコロナ禍が与えてくれたチャンスです。このことは(政府に)自粛を要請される前から守っていましたので、別に驚きも不自由もないです。むしろ孤独の環境こそが創作の利点となっています」

猫になる訓練?

 --今春出版され、大きな感動を呼んでいる画集『タマ、帰っておいで』(講談社)は天に召された愛猫タマへのレクイエムでした。今回の日記ではもう一匹の「おでん」が毎日のように登場します。横尾さんの布団などにたびたび失禁してしまうおでんですが…。

 「タマは猫の姿をした人間だったのですが、おでんは親の野良精神が残っていますので人間社会になじむのに、猫も人間も苦労しています。現在は僕の部屋から閉め出したので、廊下の砂トイレをやっと利用することを覚えました。こちらが猫になる訓練をしています。

 --本書は書評専門紙「週刊読書人」の人気連載を単行本化したもので、2016年5月から20年6月まで、4年以上にわたる日記を収録。創作日記、夢日記、闘病記、読書録、交遊録、愛猫日記…いろんな要素が混ざり合い、帯の言葉どおり「全身芸術家」の日々を追体験できる。「こんな風に読んでほしい」など要望はありますか?

 「特に要望はないです。できれば飛び飛びに読むのではなく最初から順番に読んでいただくと、時間体験と身体体験、そしてフィクションとドキュメントのブレンドで、読み手も物語を作ることができるのでは、と思いますが、まあ、どうぞご自由に」

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