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【朝晴れエッセー】神の手・10月10日

 「数年をかけて少しずつ午後診療を縮小休止する方向で検討しています」

 かかりつけの開業医へ行ったときのこと。まるで、磁石のN極とS極のように掲示板に体ごと吸い寄せられた。医師の加齢による体力の低下は否めず、それでもできるだけ長く診療を続けていきたいという旨の内容だった。

 以前、総合病院の待合で、かかりつけ医の先生をお見かけした。雲がかかったような表情で、患者さんとして来院していることを理解するのに時間を要さなかった。

 持病がある娘は、総合病院のお世話になっていた。高度な医療を必要としている患者さんたちばかりの院内は、緊張の糸が緩むことを知らない。その凜とした空気を浴びる度に、さまざまなことが際立って見えるようになった。

 娘が入院したとき、医師はいつ休んでいるのだろうと思った。昼間は外来、夜は入院病棟、さらに夜間救急患者の診察や当直。コロナ禍以前から医療従事者はハードな業務をこなしていることは間違いない。

 医師の高齢化や、それに伴う健康上の問題がはらんでいることは全く見えない。自身のことはマジックミラーで目隠しをして、患者側に見せないことも使命なのだろうか。

 診察が終わり、外へ出た。命を救う神の手は何もなかったように忙しく働いていた。そしていつもと変わらない晴れやかな眼差(まなざ)しがそこにはあった。このふたつの残像が、神々しい太陽の光と重なり心身が洗われた。

 手を合わせるのは、神社だけではなかったのだ。

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