PR

ライフ ライフ

【朝晴れエッセー】遥かな東京・9月26日

 未来のタカラジェンヌやなあ、とうわさされたマドンナが東京へ転校したことと、修学旅行が中止になるかも、という衝撃のニュースが夏休みの明けた校内で流れた。

 1959年9月26日、名古屋方面を伊勢湾台風が襲ったのだ。中学3年のことである。10日後に東京へ修学旅行が予定されていた。この年から運行の始まった修学旅行専用列車「きぼう」の乗車が楽しみのひとつだっただけに、落胆は大きかった。

 半ばあきらめていたが、決行されることになった。東京、何するものぞ、という気分の強い時代だったが、めったにない大旅行に500人もの生徒は浮き立っていた。

 濃尾(のうび)平野に列車が入ると、太い丸太が水面に等間隔で突っ立っているのが車窓から見えた。架線の切れた電柱である。

 黒い瓦屋根が浮かぶ泥の海。鉄路だけが土手の上を真っすぐに延び、静寂の中に広がる荒涼とした風景。誰もが息をのんだ。

 東京は木造の家屋も多く、大阪と変わりなく見えた。

 でも、オリンピックの開催が決まり、真新しい国立競技場や東京タワーを目の当たりにした私たちは、大東京に変貌する節目にいたのかも。旅の終わりの余韻に浸りながら夜行列車の座席で発車を待っていると、窓際でみんなが騒いでいる。

 「M子さんや」。私服で大人っぽく見えるマドンナが、窓越しに旧友らと再会を喜び合っていた。列車が動き始め「さよなら」と誰かが叫ぶと大合唱に。

 あこがれだけで口もきけなかったけれど「さよなら!」。東京が他国ほどに遠く思えた、あのころ。

竹田健次 76 建築業 大阪市中央区

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ