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【書評】『対極』鬼田隆治著 納得の「リアリティー」

 小説というのは、もとより虚構の物語で、そこに描かれる出来事と現実世界のリアルとは、もちろん別物である。しかしながら、これって本当のことかもしれない、と思わせる作品も数多く存在する。それがまあ作者の力量なのだろうが、いわゆる「小説上のリアリティー」というやつがしっかりと構築され、丁寧に描かれてあれば、読者は納得するものなのだ。

 その意味では、第2回警察小説大賞の受賞作『対極』の場合は、相当にハードルが高くなるかもしれない。

 まず物語の冒頭からしてすごい。ある日、高校3年生の少年が《警視庁警察学校》の正門から堂々と乗り込み、道場で術科訓練中だった生徒たちを、すさまじい暴力で次々と痛めつけてしまうのだ。数年後、少年はその警察学校に入学、やがて機動隊から特殊部隊へ志願し、現在は25歳で特殊急襲部隊である通称《SAT》の制圧第一班班長となっていた。

 彼が警察、それも特殊部隊員を目指したのは、合法的な暴力活動ができるからだった。たとえば、人質をとり、立て籠もった犯人を制圧するために、少々過激な行動をとったとしても許される仕事だというのである。その言葉通り、ある事件では、人質の頭にライフル銃を突きつけていた未成年を、容赦なく狙撃し射殺してしまう。

 こうした設定が、はたしてすんなりと読者に受け入れられるのか、と普通はそう思って当然だ。しかし、これがぐいぐいと読ませる。しかも、読み進むうちにこういう警察官だっているかもしれない、いや現実にいて不思議じゃないとそんなことまで思わせるようになる。

 それは、物語の中心が事件の推移もさることながら、それ以上に警察官のありようを執拗(しつよう)に描いているからだ。本書にはもうひとり主役がいる。こちらは警察官の鑑とでも言えそうな、特殊犯捜査係《SIT》の係長だ。ふたりはまさに陰と陽、対極の位置にあり、事件のたびにことごとく対立していく。

 かといって、それは決して単純な悪と正義の衝突ではない。誰からも共感されることのない、おのれの信念を貫き通す警察官の信念…これもまた「小説上のリアリティー」だ。(小学館・1600円+税)

 評・関口苑生(書評家)

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