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【書評】『スキマワラシ』恩田陸著 消えゆくモノに光あてる

 古い建物に入ったとき、建物の記憶に踏み入ったような恐れ多い気持ちになったことはないだろうか。ゾクッとする怖さと郷愁を感じる、一風変わったタイトル『スキマワラシ』。直木賞作家、恩田陸の新作は、廃ビルに現れては消える白いワンピースの少女の謎を追いながら、消えゆくモノの記憶に迫るファンタスティックミステリーだ。

 物語は「僕」の一人称で、友だちに語るような朴訥(ぼくとつ)とした口調でゆったり始まる。早くに両親を亡くし、兄の古道具屋の店内でひっそりとバーを営む「僕」には、ある秘密があった。古いモノに秘められた記憶を感じ取ってしまう能力で、両親の面影が見える古いタイルを探していた。

 ある日、廃ビルに現れる少女の噂話を聞く。目撃者は複数いるが、誰も顔は見ていない。何のために現れるのか-。そんな折、「僕」はふいに引き出しから現れた小さな手を見て、噂の少女だと確信し、「スキマワラシ」と名づける。

 さらに、「僕」は古道具を使った現代アートのフェスティバルを手伝うことになり、古びた建物が多い地方の会場で、探していたタイルと同種類のものを見つける。そして、スキマワラシの白い影もちらついて…。

 伏線の張り方がうまい。昔飼っていた犬ジローの収集癖、次男なのに「散多(さんた)」という名前の意味や、父母が好きだった落語のCDなど、魅力的なエピソードが巧みに配置されている。一見関係なさそうな話が、スキマワラシの謎や両親の思いとともに一気につながるシーンが実にあざやかで感動的だ。

 作中には古い建具や建物の記述が多いが、値の張る骨董(こっとう)の類いではなく、庶民が使い込んだもの。著者はリノベーション、転用という形で古い道具や建物に再び光が当たる瞬間を、丹念に、敬意をもって描いている。過去のものを断ち切ってしまうのでなく、現代とうまく融合して生かしていく方向性に、希望とやすらぎが感じられた。

 本の厚みが約4センチの長編で、都市伝説、現代アートと町おこし、近代から現代への時代の変わり目、家族の歴史と、盛りだくさんの要素がギュッと詰まっている。不思議大好きな人にはとくにおすすめしたい。(集英社・1800円+税)

 評・赤羽じゅんこ(絵本作家)

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