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【朝晴れエッセー】チョキチョキ・9月13日

 初めて夫の髪を切ったのは、47年前だった。

 夫は、早朝から深夜まで会社に詰める日々で、理髪店に行く暇さえなかった。やっと休みが取れた日に「後ろの髪が暑苦しいから、切ってくれないか?」と話しかけられた。「私が?」。髪を切った経験がなかったので不安だったが、疲れた表情を見ると断れなかった。

 まずは、チョキチョキと2センチほど切りそろえた。髪全体も多かったので、カミソリ式のヘアトリマーですくことにした。恐る恐る動かした手は、ジョリジョリという音とともに軽快になっていった。

 その瞬間、手が髪の中に少しめり込んだ。はっとして見ると、10円玉くらいの穴が開いている。どうしよう。夫をみると気持ちよさそうに寝ている。

 何とか修復できないかと周りをみると、黒の油性ペンが目に飛び込んできた。そっと塗りつぶし、髪を寄せて繕った。汗がどっと流れた。

 いまでは散髪の腕も上がった私だが、今度は自分の髪で悩むことになった。新型コロナのために外出を控えていたところ、自分では始末できないほど伸びてしまった。

 そんな様子を見ていた息子から「襟周りの髪を切ろうか? 素人で下手だけど」と話しかけられた。少し驚いたが、小さい頃から私が夫の髪を切っている姿を見ていたので、自然なことだったのだろう。

 短くしてもらうと、首筋にすっと心地よい風が流れた。今までこわばっていた気持ちも解きほぐれていった。

 わが家のチョキチョキ。これからも続いていってほしいな、とひそかに思っている。

園田佳與子(かよこ)(73) 埼玉県狭山市

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