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【ビブリオエッセー】人間の深淵に触れる10日間 「デカメロン」ボッカッチョ著 平川祐弘訳(河出文庫)

 何十年かぶりにボッカッチョの『デカメロン』を平川氏の新訳で読んだ。ヨーロッパの物語文学の最高傑作ともいわれるイタリア文学の古典だ。平川氏といえば本紙『正論』欄でも健筆を振るう比較文学・比較文化史学者である。とても読みやすくなったと感じた。

 このコロナ禍で広く読まれているという。物語の設定は疫病ペストが猛威を振るう1348年。若い男女10人がフィレンツェ郊外で10日間、それぞれ10話ずつ計100話を語り尽くすという趣向だ。死の影を少しでも忘れようという宴だった。『十日物語』とも呼ばれる。

 『デカメロン』といえば、公序良俗に反する猥褻な作品として顔をしかめる人もあろうが、平川氏も指摘するように『古事記』や『源氏物語』にも性にまつわるおおらかな表現は少なくない。いたずらにポリティカル・コレクトネスを言い立て、正義面することもあるまい。

 田辺聖子氏もボッカッチョに魅せられた一人で、私も以前に読んだ『ときがたりデカメロン』では「こんなにバラエティに富んだ面白い本はないのである。恋あり、冒険あり、奸計あり、純情あり、艶笑談から悲恋から、次々と珠玉のようなお話がボッカッチョの筆さきからこぼれ出て興味は尽きない」と絶賛していた。

 なるほど愛欲にからむ物語は多く、あからさまな性的描写など道学者には許しがたい話も含まれてはいるが、生命の危機にあるからこそ生と性を語る、人間の深淵に触れる寓話などの集まりなのだ。とにかく奥が深い。

 各国語に通じた平川氏の丁寧で洒脱な解説が実に興味深い。今月90歳になる私にとっても、読書の楽しみはまだまだ尽きない。

 大阪府茨木市 浅野素雄 89

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