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【ビブリオエッセー】父と娘ふたりきりの10年 「ステップ」重松清(中公文庫)

 「男やもめに蛆が湧き、女やもめに花が咲く」と言われるが、本書は花が咲いた男やもめの話である。

 この夏、映画『ステップ』が公開されたのを機に原作を読んでみた。一歳半の娘を残して夭逝した妻へのぬぐい切れない思いを抱えながら義父母ら周囲の人たちに支えられ、一粒種の養育に奔走するシングルファーザー、武田健一が本書の主人公である。

 物語は二歳半になった娘、美紀の保育園初登園日から始まり、小学校を卒業するまでの父と娘ふたりの十年間が点描されている。義父母は美紀を引き取ろうかと話をもちかけたが、健一は再婚しないと決め、子育てを第一に勤務も営業から内勤に移してもらう。

 幸い私は妻に先立たれることもなく、家事や育児のほとんどを妻に任せたまま、この主人公とは真逆の人生を歩んできた。その過程で両親や妹ら肉親との死別を経験してきた。とりわけ長い闘病生活の末、五年前に亡くなった妹は今もなお、時折、夢の中に現れてはわが心をかき乱し、自分が情けなくなってくる。

 そんなとき、小説も終盤になって健一のこんな言葉が心に響いた。「悲しさや寂しさは、消し去ったり乗り越えたりするものではなく、付き合っていくものなのだ」。美紀も人知れず寂しさと付き合ってきた。物語はゆるやかに転回し、四十歳になった健一はタイトル通り、ホップ、ステップからジャンプする人生を選ぶ。十年の歳月をかけて導き出した答えだ。私もこれにならい、亡き妹への追想と上手に付き合っていこうと考えられるようになった。

 なにより仕事にかまけて折々のわが子の成長を見過ごしてしまった私には、後悔と反省を促す一冊でもあった。

 京都府向日市 小越良夫 61

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