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交通誘導員、ゴミ清掃員…過酷な現場をユニークに 現場系お仕事エッセーが人気

現場系お仕事ものが人気を集めている(桐山弘太撮影)
現場系お仕事ものが人気を集めている(桐山弘太撮影)
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 交通誘導員やゴミ清掃員、メーター検針員…。暮らしのなかで見かけるけれど、実態をよく知らない-。そんな仕事をテーマにしたノンフィクション作品やエッセー漫画が人気だ。理不尽な目に遭っても汗水たらして働き、ささやかな幸せを見つける。過酷な現場を明るく生きぬく姿が、多くの人の心をとらえているようだ。(文化部 油原聡子)

高齢者から異例の反響

 「いったいあんたは何のためにそこに立っているんだよ?」

 工事現場の監督に怒られ、誘導を無視した車のドライバーに絡まれ…。そんな交通誘導員の毎日を明るく描いたのが、『交通誘導員ヨレヨレ日記 当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちます』(三五館シンシャ)だ。昨年7月に発売され、10刷7万6000部と好調だ。

 著者の柏耕一さんは、編集者を経て、生活費を稼ぐために交通誘導員の仕事を始めた。柏さんの日当は9000円前後。給料の相場から、工事現場の作業員との関係、個性豊かな同僚とのエピソードまで掲載されている。

 立ちっぱなしの仕事はしんどく、人員不足でトイレや休憩にすら行けない日も。現場では「最底辺の仕事」と自嘲されていると明かすが、誰にでもできる仕事ではないことも伝わってくる。工事現場の近隣住民やドライバーらとのコミュニケーションが重要なため、実は外国人労働者が少ない職種、といった意外な事実も興味深い。

 ヒットのきっかけは同社の新聞広告。地方のお年寄りから直接問い合わせが相次いだ。老後2千万円問題がクローズアップされたこともあり、メディアにも取り上げられた。読者からの反響も大きく、夫が交通誘導員だという女性からは、「誘導員の仕事を恥ずかしいと思っていたけれど、見方が変わった。夫の話をよく聞いてあげるようになりました」と感想が寄せられたという。

 今年2月に出版された『派遣添乗員ヘトヘト日記 当年66歳、本日も“日雇い派遣”で旅に出ます』は、3刷3万部。『メーター検針員テゲテゲ日記 1件40円、本日250件、10年勤めてクビになりました』は6月に出版されたばかりだが、4刷2万6000部と好調。中野長武社長は「富裕層でもなく生活保護受給者でもない、高齢で働く人の実態はあまり見えていなかった。著者の人生と地続きになっている内容が受けたのではないか」と話す。

ゴミから見える社会

 清掃員の視点からゴミ収集現場の実態やゴミにまつわるあれこれを語ったのが、『ゴミ清掃員の日常』(講談社)シリーズだ。著者はお笑いコンビ「マシンガンズ」の滝沢秀一さん。妻が作画を担当し、コミックエッセーとして昨年5月に第一弾を出版。今年7月に発売された「ミライ編」と合わせてシリーズ累計10万部に上る。

 滝沢さんは妻の妊娠と生活苦をきっかけに平成24年からゴミ清掃員として働き始めた。仕事を通じて気づいたゴミネタをツイッターで投稿したところ、所属事務所の先輩、有吉弘行さんがリツイートしたのをきっかけに注目され、積極的に情報発信をするように。

 汚いゴミ集積所から分かる地域の治安、お金持ちの住む町のゴミの特徴など、ゴミを通して見えるものはたくさんあった。滝沢さんは「ゴミは生活の縮図。いろんな角度から見えて面白い。俳優やボクサーなど兼業で働く人もいるんですよ」と話す。

 がんになって死ぬぎりぎりまでゴミ清掃員として働いた人の思い出、夏の暑い日の作業の苦労など、清掃員としての日々が描かれる。編集担当者は「赤ちゃんからお年寄りまでゴミを出さない人はいない。身近なテーマとして読まれたのではないか」としている。

老後をイメージ?

 現場系お仕事ものは新たな人気ジャンルになるのか。出版科学研究所の久保雅暖研究員は「“仕事もの”のエッセーは、女性向けや経営者など何かを成し遂げた人の体験談が多く、市井(しせい)の人が書いたものはあまりなかった。また、高齢者に向けたエッセーは、老後の生き方を説いた書籍が多いなか、現役で働くシニア層の悲哀と笑いにあふれた内容が、新しいタイプの“仕事もの”に感じられたのではないか」と指摘する。

 未来の自分を重ねているのか幅広い世代にも読まれているようだ。

 ニッセイ基礎研究所生活研究部主任研究員の久我尚子さんは「人生100年時代といわれるなか、高齢になっても続けられそうな仕事への興味はある」と分析。近年、地震や豪雨など自然災害が増え、若い人の社会貢献意識も高まっている。「コロナ禍、エッセンシャルワーカーも注目されました。社会に役立つ仕事への関心が高まっているのも人気の理由ではないでしょうか」と話す。

エンタメに昇華

 労働者を取り上げた作品は昔からあった。関東学院大学の新井克弥教授(メディア社会論)によると、1980年代には、悲惨な労働を強いられた知られざる仕事を取り上げたルポルタージュがはやったという。ただ、最近人気の現場系お仕事ものは、「労働者本人が観察者的視点を持ち、絶望感を描いているわけではない。当事者が明るく伝えることでひとつのエンターテインメントになっている」と指摘。過酷な体験を明るく描くという表現方法では、漫画家の吾妻ひでおの失踪体験に基づく『失踪日記』(平成17年)が知られているという。

 新井教授は「最近はSNSの発達でいろいろな情報が発信されるようになり、ユニークなものやトリビアに関心が行く。存在は知っているけれどよく知らない人たちの日常の話として、面白がられているのではないか」と話している。

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