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【書評】『「街小説」 読みくらべ』都甲幸治著 文学でたどる街の「魂」

 金沢、福岡、吉祥寺、国立、本郷、早稲田、ロサンゼルス、ニューヨーク。8つの街をそれぞれ舞台にした小説を読み解きながらその土地を案内するという、凝った趣向の書評エッセー集である。

 タイトルには「読みくらべ」とある。「住みくらべ」ともいえるかもしれない。たとえ居を置いていなくとも、仕事や帰省など、翻訳家の都甲幸治さんにとって生活があったところ。だから、上澄みの印象ではなく、感じた悲喜こもごもを交えつつ街と文学をたどる。

 高校時代を過ごした金沢の章では、そこで生まれ育った室生犀星、3年ほど暮らした古井由吉、訪問を重ねた吉田健一の作品を読み比べる。犀星の『幼年時代』には「まるで自分の過去を読み直しているようだった」との感慨を抱いたという。都甲さんが金沢にいたのは1980年代後半で、犀星が描いているのは、そこから100年近く前の風景ではあっても、「まさに文学とは、文字の形で刻み込まれた街の魂なのだ」と書き表される普遍性が読み取れる。

 2011年から3年の間、留学生として暮らしたロサンゼルスでは、アメリカで白人ではない者として暮らすことについて書かれたジェームズ・M・ケインの『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を取り上げる。この街で都甲さんは煩悶(はんもん)していた。

 「ロサンゼルスで僕は、三十歳になるまで日本で過ごした自分を葬るつもりがあるのかをずっと問われていた気がする」「結局僕は、日本での自分を生かす代わりに、アメリカでのもう一つの人生を殺すことにした」

 その振り返りは、チャールズ・ブコウスキーの『パルプ』の世界に接続される。どこに根を張って生きるかを選ぶには、それくらいの覚悟がいるというのは本当だ。誰しも、身はひとつなのだから。

 早稲田小説として紹介される、坪内逍遥『当世書生気質』では、外来語やオノマトペを多用した「音の重視」に着目している。そういえば、関西をルーツとする人が書く文章には、オノマトペがいきいきと使われていることが多いのを思い出す。もし都甲さんが関西で暮らしたならば、どんな風に街と文学の関係を読み解くだろうか。(立東舎・2200円+税)

 評・木村衣有子(文筆家)

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