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【ザ・インタビュー】出会った人たちの死を振り返る 漫才師・日本語学者 サンキュータツオさん新刊「これやこの」

随筆集「これやこの」を上梓したサンキュータツオさん(酒巻俊介撮影)
随筆集「これやこの」を上梓したサンキュータツオさん(酒巻俊介撮影)
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 これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関

 本書の題名を見て、人々が出会っては別れていく風景を詠んだこの蝉丸の歌を思いだす人は多いだろう。本書は漫才師にして日本語学者でもある著者が、自身の人生を通り過ぎていった人たちの「死」を振り返った初の随筆集である。

 「同世代の人と話すと、自分が『人が亡くなる瞬間』に立ち会っていることが多いことに気づきました。40代を迎え人生も折り返しを過ぎ、忘れたくない人たちのことを書き留めておきたいと思いました」

 表題作はいずれも60代で亡くなった落語家、柳家喜多八さんと立川左談次さんをしのぶ随筆だ。著者はキュレーターとして関わった初心者向けの落語「渋谷らくご」を通じて2人と交流。亡くなる間際まで落語に精魂を傾けた2人の背中と心意気を文章にした。

 「落語家にとって、70代からの10年間は完成期であり円熟期。ただ、お二人はその直前でお亡くなりになった。お二人のことは落語ファンなら知っていますが、誰もが知る存在ではない。僕が書き残したいと…」

 収録された随筆は17編。早世した父との数少ない思い出や、明治生まれの祖父が祖母の臨終の際に叫んだ意外な言葉などがつづられている。その一方で、電車の人身事故で亡くなった「見ず知らず」の人の死も織り込んだ。どの話も一定の距離感をもって描かれ、悲壮感は感じられない。

 「僕は幼いころ、父の死に至る過程を見て、そこから学ぶことができた。死が生きている人に投げかけるものは多いと思います。ただし、泣くための本ではありません。死を感傷的に書かないよう心がけました」

■  ■  ■

 多芸かつ多趣味の人だ。漫画やアニメに詳しく、ボーイズラブ(BL)にも造詣が深い。大学院時代のゼミで国語辞典を読み続けた結果、辞典を読むことが趣味になった。さらには恩師から闘魂を注入されたとか。

 「死も辞典もアニメもそうですが、結果よりも大事なのはそこに至るプロセスや文脈、ディテール。結論に入っていない部分を大事にしたいし、要約するとこぼれ落ちてしまうものこそが大事なのだ…ということを、人生をかけて主張していきたい」

 平成30年刊行の「広辞苑」第7版ではサブカルチャー分野の執筆を担当。唯一無二の「学者芸人」という地位を確立した。

 「(大学院も含め)大学に14年も通い、就職口もそんなにない時代。そうやって生きていくしか選択肢がなかったんです」

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 本書の掉尾(ちょうび)を飾るのは、昨年7月に起きた京都アニメーション放火殺人事件に触れた「鈍色の夏」だ。強いショックを受け、「極端に言うと生きる気力をなくしていた」と振り返る。

 そんな日々を変えてくれたのは「野球」だったという。主に描かれるのは、元プロ野球選手で現在は社会人野球に活躍の場を移す須田幸太投手。長丁場の都市対抗野球で何度もピンチをしのいだ“魂の投球”を球場で見た著者が、自身の気持ちに折り合いをつけ、生きる力を取り戻す過程が印象的だ。

 「正直いまだに心の整理はついていませんが、現役としての“生”に向き合う須田投手の姿に心励まされました。『スポーツから勇気をもらう』。よくいわれるフレーズですが、そのことを初めて実感しました」

 まもなくお盆。宗派にかかわらず多くの人が死に思いをはせる時期でもある。

 「人の死は必ず生きている人に『後悔』をもたらします。あの時こうすれば、もっと話を聞いていれば…。でも、生きるということは、後ろめたさを抱えながらうまくやっていくということです。自分を責める必要はないと思います」

 今後の目標は?

 「生きていくことですかね。しっかりと。大きくもうけようとせず、まっとうに暮らしていく。あんまり芸人がいうことじゃないですが」

3つのQ

Q芸名の由来は?

いかにも天下を取らなさそうな名前、聞いた瞬間脱力してしまいそうな名前を選びました

Q心に残る漫画は?

4姉妹の成長を描いた「海街diary」(吉田秋生著)です。リアルな人間の生き方が描かれており、死もテーマの根底にある

Qコロナ禍での気晴らしは?

車も好きなので、ユーチューブで車中泊の動画を見ること。日常系アニメを見ているような面白さがあります

(文化部 本間英士)

     

 昭和51年、東京都生まれ。早稲田大大学院修了。文学修士。漫才コンビ「米粒写経」として活動する一方、一橋大や早稲田大などで非常勤講師をつとめる。「日本初の学者芸人」として、ラジオや雑誌など幅広い分野で活躍。主な著書に『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』『ヘンな論文』など。

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