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【TOKYOまち・ひと物語】子供に「幸せの種」手渡し このあの文庫主宰の小宮由さん

「このあの文庫」を主宰する翻訳家の小宮由さん=杉並区
「このあの文庫」を主宰する翻訳家の小宮由さん=杉並区

 東京・阿佐ケ谷の閑静な住宅街に、子供たちを夢中にさせる場所がある。翻訳家の小宮由(ゆう)さん(46)が自宅の一角を開放してつくった家庭文庫「このあの文庫」だ。厳選された約2000冊の児童書を貸し出し、読書の場も提供。本は子供たちの心を強く豊かにする。そんな信念の下、子供たちに“幸せの種”を手渡してきた。(三宅陽子)

 3階建て住宅の1階にある「このあの文庫」は玄関から入ってすぐ。8畳ほどの室内には暖かな色のカーペットが敷かれ、壁に沿うように児童書が所狭しと並ぶ。現在は新型コロナウイルスの影響で休館中だが、普段は毎週土曜日の午後2~5時に無料で開放されている。会員は現在約250人を数え、近所のみならず区外からもやって来る。

 原点となったのは、家族の姿だった。小学1年の頃に両親が熊本で児童書専門店を始め、自分たちがいいと思った本を売るようになった。家庭文庫の運営も手掛けていた。

 転機は大学時代。トルストイ文学の翻訳家として知られる祖父、北御門二郎さんが訳した「復活」「アンナ・カレーニナ」「戦争と平和」などを読みふけり、両親の店の本棚にも手を伸ばして、夢中になった。そんなある日、トルストイの本も子供の本も、伝えたいことの根底にあるものは「愛」だと気付いた。両親が大きな利益を生むわけでもない不器用な商売を続ける理由を知った気がした。「自分も子供の本の世界に進みたい」。そう思った。

 大学卒業後は児童書を扱う出版社に就職。その後、翻訳家となった。貫いたのは自ら手掛けたい本を版元に持ち込み、翻訳を担うスタイル。「せかいいちおいしいスープ」「さかさ町」など多くの訳書を世に送り出し、その数はこの秋、100冊に達する見込みだ。

 良質な本が子供に果たす役割は大きい。伝え続ける情熱の源泉はここにある。

 「子供は物語の中で主人公になりきり、楽しさや悲しさ、つらさといった実生活では味わえない感情を体験する。その体験は時代も国境も、文化や習慣さえも越えていく。たくさんの本を読むということは『いろいろな“他(た)の気持ち”を本からもらう』ということ。やがてその蓄積は、相手を思いやる豊かな心へとつながっていく」

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