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【ゆうゆうLife】家族がいてもいなくても(649)「笛を吹く人」と人形劇

 雨が降ったりやんだり。このぐずぐずした空模様も、家族が住む東京の新型コロナウイルスの状況も、国の経済の行く末も…。小さなことから大きなことまで晴れ晴れとしない状況が続いている。

 能天気な私も、手の尽くしようもないこの感じに気が沈む。

 そんな最中(さなか)、近くのフォレストカフェに出掛けていった。

 週3日だけ開店するこの森のカフェは、今や私にはなくてはならない癒やしの場。年々、居心地がよくなっていく。

 この日は、オーナーのケイコさんから、「笛を吹く人が来るよ」と誘われたのだった。

 「笛を吹く人」って? フルート? リコーダー? サックス? 口笛? 笛にもいろいろあるけれど、どんな笛かなあ、と思いながら来てみると、常連たちもいて、森の中は親しげな雰囲気に満ちていた。

 そして、その「笛を吹く人」は宇都宮のタカハシさん。聞けば、私が初めて来たときと同様、ふと看板を目にとめ、ふらりと森の中へと進み、カフェで請われて笛を吹いたら、また来てね、と言われてまた来たのだそうだ。

 じゃあ、吹きますね、と言って、彼が吹き始めたのはスウェーデンのフォークダンス曲。さらに、喜びの歌、お引っ越し行進曲、夏のワルツなどなど。

 いずれも黒い木製のフルートふうの横笛で奏でられた。その音色も形もアンティーク。森の中にそれが響くのが、なんとも素朴で素敵だった。

 日本の民謡と同じように普通の暮らしの中で人から人へと伝えられてきた曲なのだろう。人々が手に手を取って自然に踊り出しそうな曲ばかりだった。

 それから、ティン・ホイッスル、つまり「ブリキの笛」で、アイルランドのフォークミュージックが奏でられた。これがまた素朴で、ピーヒョロロ、ピーヒョロロと、森の木々の間をその笛の音が流れていくさまが楽しい。

 目下、私は「原っぱ」に小さな野外劇場を作り、そこでの人形劇の公演をもくろんでいる。

 それがいつできるのか、それまで元気でいられるのか分からないけれど、このブリキの笛の音に合わせて、花や虫たちの人形が踊り出す光景が目に浮かんできた。

 こんなときに「笛を吹く人」と知り合えたなんて幸運なことに違いない。この思いが、実現してもしなくても、それだけで気持ちがぐんと軽やかになる。

 空も心も曇ってはいたけれど、「笛を吹く人」に癒やされた不思議な午後のひとときだった。(ノンフィクション作家・久田恵) 

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