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ビーズが紡いだパキスタンへの思い JICA中高生エッセイコンテスト募集開始 身近な題材から「世界とつながる自分」

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 途上国の現状や日本との関係への理解を深め、国際社会でどう行動すべきか━中高生がこの課題を考える機会として学校教育でも活用が広がる「JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト」(独立行政法人国際協力機構〈JICA〉主催)の募集が始まった。今年は、「世界とつながる自分━私たちが考えること、できること━」がテーマ。身近な題材から国際社会への接点を見いだし、昨年度の審査員特別賞を輩出した安田学園中学(東京・墨田)の取り組みを取材した。

日本国内でも小さな一歩は踏み出せる

 「このチラシを細く切って、つまようじにくるくると巻き付けて作るんです」。同校3年の小坂里桜さんはこう話しながら、水色やピンクなど色彩のきれいなビーズで装飾したストラップやアクセサリーを机に並べた。一見すると商品のような完成度の高さだが、紙製(ペーパー)ビーズは手作り。彼女のエッセイ「奇跡は案外身近なところに」は、この手作りの体験を基に、背景にあるパキスタンの女性の自立支援活動「ペーパーミラクルズ」への思いを紡ぎ、審査員特別賞に輝いた。

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 活動は2005年に同国で起きた大地震で被災し、下半身不随になった女性サフィアさんと出会った開発コンサルタント会社経営の高垣絵里さんが12年に立ち上げた。シェルターで暮らすサフィアさんの「自らの力で生きられるようになりたい」と切望する姿に心を打たれ、高垣さんが車いすに座ったままでも作れるペーパービーズで収入を得ることが自立につながると考案した。

サフィアさん(左)らと写る高垣さん(右から4人目)=ペーパーミラクルズ提供
サフィアさん(左)らと写る高垣さん(右から4人目)=ペーパーミラクルズ提供
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 小坂さんは昨夏、高垣さんと同級生だった母親が同窓会から持ち帰った試作キットで活動を知る。もともと「誕生会の飾り付けなどモノをつくるのが好きだった」ため自ら試作に挑み、背景にある自立支援の重要性を学んだ。

 夏休みにエッセイコンテストへの応募を課されるなか、「海外を訪れたこともないので、国際的なテーマを書くのは難しい。でも、海外の社会貢献と同じ体験ができるペーパービーズ作りの身近さを強調したいと思った」

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 まず、活動のパンフレットのほか、ネットや動画を使って現地の情報を徹底的に調べ、書きたいことや思いついたアイデアをA4用紙に箇条書きで列挙。エッセイにまとめる際は、同国の複雑な状況を簡潔に表現するのに苦労したが、「母親から客観的に伝わるかどうかアドバイスをもらった」。最初は原稿用紙4枚以上になったが、2日間で4回も書き直して表現に磨きをかけた。

 結果、中学生部門の応募作品2万7320点のなかから受賞。母親を通じて受賞報告を受けた高垣さんは「(ビーズの)作り手の想(おも)いが国境や世代を超えて、日本の若い子の心にも響き、さらに輪が広がっていくことはうれしい」と目を細める。

 実は飛行機に乗るのが「怖い」と笑う小坂さんは「日本国内にいても、国際協力の小さな一歩は踏み出せる。受賞でちょっと自信がついたので、また作品をコンテストに応募してみたい」と話した。

審査員長を務める尾木さん「世界が同じ課題に向かう今こそ、グローバルな視点を」

 安田学園中学は例年、2年時のプログラムにエッセイコンテストを取り入れ、昨年度は小坂さんの受賞作を含む185点を応募して「学校賞」も受賞している。積極的な取り組みの原点は、同校の教育目標「自ら学び考え、創造的学力・人間力を身につけ、グローバル社会に貢献する」に基づいたキャリア教育にある。

 プログラムは学年別に、1年時は会社訪問などで社会とのつながりや「働く」という基本を学び、2年時は日本や世界の課題を考える「社会貢献」に視野を広げる。3年時は、2年間学んだ社会のなかで、自らがどうありたいかをOBの講演などを基に考える━明確なステップを踏み、学習や進路への指針を形成する狙いだ。

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 エッセイは2年時に学ぶ社会貢献のなかで、JICAの海外協力隊員らを講師とする「国際協力出前講座」と合わせて活用。同校教育企画開発本部の諸葛正弥部長は「講座で海外の活動を聞くと、生徒は自分には難しいと思うかもしれないが、『知る』ことから始めるよう勧めている。世界の課題を知ったうえで、貢献できる仕事を選ぶのか、単に面白そうで選ぶのかでは選択肢が大きく変わるはず」と語る。

 そのためエッセイは夏休みの課題とするが、題材探しや書き方などの指導はせず、生徒が自ら悩み、試行錯誤して仕上げるよう促している。海外経験を生かして書く生徒がいる一方、小坂さんのように身近な題材を巧く生かす作品も生まれている。

 ただ、いまはネットで簡単に情報を集められる分、「実体験や実感を伴う作品は少ないのが課題」(諸葛氏)。これに対し、JICAの講座のほか、諸葛氏も自らの経験を話すことで生徒が考えるきっかけづくりに取り組んでいる。例えば、東日本大震災の復興支援に駆け付け、宮城県石巻市で被災した子供を対象に塾を開いたが、「地元の塾から批判を受けたこともある。でも、行動しなければわからなかったことなので、失敗から得た教訓も含めて伝えている」ことで生徒に向き合う。

 これまでエッセイコンテストの成果として、3年時に実施する海外研修前に文化の違いを調べるなど生徒の姿勢にも効果がみられるという。

 だが、今年は休校の影響でJICAの講座を開けず、夏休みも短縮する状況で、生徒の意欲を引き出すことが例年以上に重要になる。同校は校内の情報共有ツールやビデオ会議システムなどを活用し、生徒にエッセイの書き方などを指導する方法を検討している。

 諸葛氏は「海外に行くのが難しいいま、どんな国際協力ができるかを考える機会になる。固定観念にとらわれず、日本でもできることを考えてもらいたい」と話した。

中学生部門の審査員長を務める教育評論家、尾木直樹さんのコメント「地球規模で同時にウイルスの脅威にさらされるという未曽有の事態。世界中の人々が同じ課題に向き合う今こそ、一人一人が世界とのつながりを意識し、グローバルな視点を持つことが求められます。直接的な交流が難しい今、いかに心をつなぐのか―エッセイを通して若き中高生のみなさんの英知と行動力を発揮し、未来への希望をつむいでほしいですね」

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「JICA 国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト」の募集概要はこちら

※募集締め切りは9月11日。学校応募だけでなく、個人でも応募できる。

提供:独立行政法人国際協力機構(JICA)

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