PR

ライフ ライフ

【ビブリオエッセー】極寒の海で戦う男たちに涙 「女王陛下のユリシーズ号」アリステア・マクリーン著 村上博基訳(ハヤカワ文庫)

 本を読んで涙ぐむことはよくあったが、しゃくり上げて泣いたのはそのときが初めてだった。『女王陛下のユリシーズ号』。もう50年も前の独身の頃、職場の男性の先輩に借りた本だった。

 海洋冒険小説の不朽の名作といわれるこの小説は1955年に発刊された英国の作家、マクリーンのデビュー作。第二次大戦中、援ソ物資を積んだ連合軍輸送船団の巡洋艦、ユリシーズ号の1週間にわたる戦いの記録だ。スコットランドのスカパ・フローからソ連のムルマンスクへ。北の海は最悪の天候が続き、荒れ狂う波、寒さと風が猛威を振るう。船団は北極海を越え、極寒の中で、疲れ切った男たちがただ尊敬するヴァレリー艦長のために死力を尽くすのだ。

 ここにドイツ軍。海からはUボート、空からはコンドル編隊の猛攻を受け、満身創痍。32隻あった船団が最後に残ったのは5隻のみ。ヴァレリー艦長ら何人もが戦死し、他艦で治療していた軍医だけが生き残るという過酷さだった。

 心に残る男たちばかりだが、私が泣いたのはラルストン。北欧系の容姿を持つ寡黙な若者だ。海軍内のトラブルで弟を亡くし、故郷の生家では空襲により母と姉妹も死んだ。さらに、同じ船団のタンカーの船長だった父の船は敵の攻撃で炎上、標的になるため味方によって葬られる運命にあった。上官の命令に抗えず、父のタンカーを沈めたのはラルストンだった。

 海軍での従軍体験があるマクリーン。この小説は反戦の書かもしれない。つらくて2、3ページごとに本を置きながら何度も読んだ。男性賛美もすごい。女性がほとんど登場しないのもこの作家の特徴だ。ともあれこの深い本をこれからも読み返すだろう。

 大阪市北区 太田由里 80

【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。 

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ