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【書評】『アコーディオン弾きの息子』ベルナルド・アチャガ著、金子奈美訳 少数者の怒り受け継がれ

『アコーディオン弾きの息子』ベルナルド・アチャガ著、金子奈美訳
『アコーディオン弾きの息子』ベルナルド・アチャガ著、金子奈美訳

 2003年に出版された長編小説の翻訳である。フォークナーやガルシア・マルケスが試みたようにスペイン・バスク地方の「オババ」という架空の町を舞台にして展開する。主人公ダビの思春期、学生時代、30代以後のアメリカでの生活の3つの部分で構成されている。

 1965年はスペイン内戦が終わって平和の25年が過ぎた年だった。ダビは牧歌的なオババに愛着をもつ15歳の少年だったが、叔父の言葉や友人の家で見た秘密のノートから、闇につつまれた過去に気づく。平和の名のもとに隠された過去への疑いが作品の前半部である。町の顔役、父のアンヘルは保守派の戦没者の慰霊碑を建てようとしている。だが叔父は彼を批判し、慰霊祭でアコーディオンを弾くなとダビに言う。36年にオババでは何があったのか?

 後半部の「木の燃えかす」の項では大学生のダビの交友や70年8月の日常が描かれる。平和をあざ笑うかのように慰霊碑は爆破される。オババにも活動家が入り、スペイン国旗焼き捨て、ホテルの放火が起きる。バスク解放運動の一部が過激化する中で、ダビや友人ヨシェバも政治組織に加わっていく。

 作品はアチャガの得意な入れ子構造、枠物語になっていて、話が反響しあう。ヨシェバがダビの思い出を述べる冒頭と彼が3つの短編を朗読する最後の部分との間に、ダビが語る長編小説が配されている。つまり小説には2人の語り手がいるのだ。また前半のクライマックス「ペドロの話」に納得したつもりでいると、後半の「ペドロの手紙」の段で読者は犠牲者の非情な結末を突きつけられる。

 作品にリアリティーを感じるのは、ゲルニカの爆撃などのバスクが受けた不当な扱いへの怒りが過去のことではないからだ。その怒りは、未知の祖国をめざす過激派だけでなく、多くの人々に受け継がれている。バスク人は少数で、自由にバスク語を学ぶことを許されず、自治権を回復するのは78年である。寓話(ぐうわ)的な代表作『オババコアック』に対して、本書は自由を奪われたバスクの父子二世代の同時代史に踏み込んでいる。

 スペイン語版もあるが、著者の母語であるバスク語テキストから訳された貴重な一冊だ。(新潮クレスト・ブックス・3000円+税)

 評・西村英一郎(スペイン語文学者)

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