PR

ライフ ライフ

【ビブリオエッセー】面影の中の日本 「小泉八雲集」上田和夫訳(新潮文庫)

 「耳なし芳一のはなし」や「雪おんな」など誰もが知っている『怪談』の小泉八雲ですが、それだけではありません。私が愛読してきたこの本は日本人の心情や美意識に迫った著書の数々も読めるアンソロジーで、八雲の日本観を堪能することができます。

 『日本雑記』の「破られた約束」では死の間際の妻に後添いはもらわないと誓った夫が約束を破ります。幽霊となった亡妻は若い後妻を許せず、惨殺するのです。その結末に納得できない八雲は語ってくれた友人に、復讐は男にむかってやるべきだと反論しますが友人はこう答えます。「それは女の感じ方ではありません」。

 この言葉にはうなりました。物語を客観的に書くだけではなくたまに著者が顔を出すところが興味深く、人となりが垣間見えます。

 ホラー作品はあの手この手の新作が次々に登場しますが、怖い話の古典である八雲の作品がずっと読み継がれているのはなぜでしょうか。ただ怖いだけでなく場面の美しさや日本人の情念を巧みに写し取っているからにほかならず、外国人である八雲が日本人以上に日本人を理解していたことに驚かされます。

 『知られぬ日本の面影』の「心中」は外国人からみた日本人独特の来世観が記されます。禁じられた自殺が「心中」となると来世で結ばれると信じられていることについて。友人は八雲に女ことばで書かれた女の遺書を見せ、女性ならではの「やわらかでやさしいことばを、他の国語に移すことなど、できそうにない」と大意のみ伝えます。余韻を残す名随筆です。

 日本人へのやさしいまなざしと深い敬意を感じる『小泉八雲集』。「古い日本」を追慕する言葉の数々が今も胸に響きます。

 神奈川県大和市 ツナ 51

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。 

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ