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【ビブリオエッセー】静かなる情熱、桐山君と藤井君 「3月のライオン」羽海野チカ(白泉社)

 先のことを考えると気が滅入りそうな毎日に、その名を聞くだけで心躍る話題がある。高校生棋士、藤井聡太君の大躍進だ。息子と同年代の藤井君が次々と記録を打ち立てていく姿は、敵を無双していくアニメのヒーローみたいで胸が熱くなる。「天才」とか「AI時代の申し子」とか呼ばれ、礼儀正しくいつも穏やかだが、彼なりの人知れぬ苦悩があるに違いない。

 それを考えさせてくれるのが高校生棋士の成長を描く漫画『3月のライオン』だ。主人公、桐山零も中学生で史上5人目のプロ棋士になった天才(現実には5人目が藤井君)。ではあるが零はただ才能があったのではなく、そこに到るまでに恐ろしいまでの努力を積み上げ、心の葛藤を重ねていく。将棋を仕事にするということは「ちょっと強かった」では済まない情熱とその道に身を捧げる覚悟が必要なのだ。

 印象的な言葉は数々あるが「プロになるということは止まらない列車に飛び乗るようなものだ。もう二度と降りる事はできない」「『強く』なればなる程負けた時くやしくなります。むしろかけた時間の分だけ負けるとくやしいので進めば進む程くやしくなります」。藤井君も柔和な表情の裏で闘志を燃やし、ひたむきに努力しているのだろう。将棋のことはわからないが漫画を読みながらそんな姿が浮かんだ。

 家族を失い天涯孤独だった少年が将棋を通じて人生をつかんでいく人間ドラマだ。取り巻く人たち、川本家の三姉妹や親友の二海堂に島田八段や担任の林田先生、育ての親の幸田八段、棋界の最高峰、宗谷冬司…登場人物のそれぞれに心が揺さぶられる。そんな大好きな作品から飛び出してきたような藤井君。彼の歩みをまだ連載中のこの漫画とともに応援したい。

 大阪府豊中市 和田晃子 50

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

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