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コロナ禍のライブ・エンタメ業界 有料配信は“活路”となるか

 人気バンド「サザンオールスターズ」の桑田佳祐(けいすけ)さん(64)が、ステージ上から空席に向かって大きく手を振った。「新型コロナウイルスと日々闘っている医療や行政の関係者に敬意を表して、ライブをやらせていただきます」

 6月25日夜の横浜アリーナ(横浜市)。客席には撮影機材が置かれ、約2時間で22曲を披露。バックダンサーも一時、マスクを着けて踊った。

 イベントの中止や縮小が相次ぎ、感染防止対策と収益モデルの両立に苦しむライブ・エンターテインメント業界。年間ダメージが6900億円に上るという試算もある中、生き残りをかけて有料配信への取り組みが急速に進む。

 「サザン」初の無観客有料ライブは、横浜アリーナの収容人数(約1万7千人)の10倍以上にあたる約18万人が3600円のチケットを購入、推定視聴者は約50万人に上った。通常の4割程度のチケット価格ということを差し引いても、「この情勢下、配信が優れた収入源になることを証明した」(芸能関係者)。

 もともと音楽業界は歌や演奏を無料配信している若手アーティストが多く、ネットとの親和性は高い。「無料に慣れた視聴者を、うまく有料サービスに誘導できれば生き残りのチャンスはある」として、「投げ銭」(料金の支払い)のシステムや、アイドルと会話できるサービスなど、収益性を高める試みが進む。

■コロナ禍での戦い方

 一方、これまでオンラインへの進出に抵抗があったのがステージ業界だ。生の舞台にこだわりがあり、配信を「考えたこともなかった」という団体は少なくない。何より、テレビドラマや映画という優れた専門の媒体もある。

 だが、劇場の休止長期化で変わった。「劇団鹿殺し」の制作、高橋戦車さん(37)は「コロナ禍での闘い方を早く確立しなければ、業界の存続が危うい」と、有料配信に活路を見いだす。

 高橋さんらは、緊急事態宣言が解除されて間もない6月1日から本多劇場(東京・下北沢)で、1人芝居の有料無観客生配信を行った。劇場での観劇に近づける意図でアーカイブは残さず“ライブ感”を強調。舞台としては格安の2500~3500円で、映画(1回1900円)やネットフリックス(月額880円)の料金設定を意識したという。本多劇場の386席に対し、初日の観覧者数は2千人以上、その後も収容人数超えが続いた。成功だった。「興行が成り立つのか怖かったが採算は取れた。後に続く人の参考になればいい」

■加速する有料配信

 PARCO劇場(東京・渋谷)も、今月上演している三谷幸喜(みたに・こうき)さんの最新作を有料ライブ配信する。担当者は「配信の向こう側には無限にお客さんがいる」として、「今までアプローチできなかった人にも演劇を届けたい」と意気込む。劇場に足を運ぶ習慣がなかった人を取り込む狙いだ。

 歌舞伎もまた、唯一無二のジャンルであることを武器に、配信への取り組みを加速させている。オンライン対談「歌舞伎家話(かぶきやわ)」や、ビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」を使った「図夢(ずうむ)歌舞伎」など、矢継ぎ早に有料配信企画を始動させてきた松本幸四郎さん(47)は、「時代に即したエンターテインメントをやる」と前向きに考えている。12日に「ART歌舞伎」を有料配信する中村壱太郎(かずたろう)さん(29)も、「これで食べていけるとは思わないが、今できることをやりたい」。

 収益性という指標ではそれぞれ成功の度合いに差があるのが現実だ。だが、共通項もある。

 「同情や応援だけでは長く続かない。対価を得られるのは作品だけだから」。高橋さんは冷静に考える。この厳しさはジャンルも、配信もリアルも、区別はない。「採算が取れるだけの観客を集めるには、他にない価値のある作品である必要がある。私たちはそれを作っていかないと」

(三宅令)

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