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【ビブリオエッセー】少年たちは、くじけない 「逆ソクラテス」伊坂幸太郎(集英社)

 伊坂さんの作品の面白さは、どんでん返しの妙にあると思っている。いつも「えっ、そうくるわけ」と期待を裏切らないプロットの見事さは芸術的である。

 この春刊行された『逆ソクラテス』は小学校が舞台の短編が5つ。物語は、子供たちの世界にいじめや虐待、競争、シングルのマザーやファーザーといった現代的な背景を織り込みながら展開する。先入観いっぱいの先生をいかにへこますか、威張っている同級生とどう向き合うか、気弱な新任教師にしっかりしてもらうには…。答えのない問題に小学校高学年の少年たちの視点は瑞々しく、ひとつひとつが人生経験になっていく。

 少年たちは親子や仲間への思いをベースに他者を理解することで自分と向き合う。この作業はしんどいし面倒だが、成長そのものなのだ。そして凛とした行動が大人の固定観念や過ちを犯した者の人生をも変えていく。

 伊坂さんはこれまで「子供を主人公にする小説を書くのは難しい」と思っていたそうだ。「懐古的な話や教訓話、綺麗事に引き寄せられてしまうのは寂しい」「かと言って、後味の悪い話にするのもあざとい」と。しかし著者自身の体験と思われる場面も随所にあり、読み進めると体育館や教室に自分もいるような高揚感を感じた。主人公が地味で目立たない少年たちという設定にも共感できたからかもしれない。

 私はこの3月、小学校教員を定年退職した。高学年の子供たちを受け持つことが多く、国語の時間には主人公が嫌いな相手を理解しながら成長していく物語をともに読んだ。小説の中の先生にかつての自分を投影しながら味わった。とりわけ「僕は、そうは、思わない」という言葉が心に響く。ぜひ楽しんでほしい短編集だ。

 広島県東広島市 葵そら 60

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