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【書評】『きたきた捕物帖』宮部みゆき著

■五感刺激する下町物語

 人気作家、宮部みゆきの新シリーズ。江戸の下町を舞台に人間模様が繰り広げられる。さすがに文章の切れ味がよくて、読んでいて、心がスーッと楽しい。物語の起伏が私たちの五感を刺激して、現代の日常生活で失いがちなものにも気づかせてくれる。それでさわやかな解放感を味わえるのだ。

 16歳の主人公、北一(きたいち)は下っ端の岡っ引きだったが、親分が急死してしまう。親分の本業が文庫(本や小物を入れる厚紙でできた箱)売りだったことから、北一は文庫を行商で売って生計をたて、長屋で一人暮らしをしている。彼が銭湯の釜たきをしている喜多次(きたじ)とタッグを組んで、難事件を次々に解決していくという趣向だ。

 北一と喜多次で「きたきた」となるのだが、1冊目の今回は、個性豊かな登場人物たちを紹介しながら、物語が進む。4編が収められており、2人が相棒になるのは3編目からだ。

 福笑いの悲劇、すごろくの呪い、床下から見つかった白骨、死人の生まれ変わりを自称する女性。奇妙な事件が相次ぎ、北一は振り回される。この青年、誠実でまじめなのだが、いくじなしで、少し気が短い。どのように鍛えられ、たくましくなっていくのか、それもシリーズの今後の楽しみになっている。

 怪談じみた事件を推理する中心にいるのは、死んだ親分のおかみさんである。松葉という。この人は目が不自由なのだが、気配を察知する力やにおいを感じる力、さらには論理的な思考力も、ずば抜けている。北一たちの目には見えない物事の真相や、現実の裏側で動いている人々の思惑が手に取るようによくわかっているのである。

 氾濫(はんらん)する映像一つとっても、現代というのは目を酷使させる時代だ。私たちの視力は何て疲れていることだろう。それを日々痛感する。また、事実をごまかしたフェイクニュースが飛び交う時代でもある。そんな時に、ものに動じず、現象の背後にうごめくものを読み解く松葉の姿はひときわ印象的だし、そこにこの小説の現代性があるともいえるだろう。

 宮部は、自分が現役である限り、このシリーズを書き続けたい、と話している。大いに期待したいところだ。(PHP研究所・1600円+税)

 評・重里徹也(文芸評論家、聖徳大学教授)

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