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【ビブリオエッセー】「北限」の大自然の中で 「流れのほとり」神沢利子・作 瀬川康男・画(福音館文庫)

 「北限」という言葉に人はどんな思いを抱くだろうか。私にとっての北限は旧ソ連時代に訪れたアムール川だ。最近、梯久美子の『サガレン』という圧巻の紀行ルポを読んだ。サガレンとはサハリン、樺太のこと。ここでの北限とは歴史的変遷を経て終戦まで日本領だった南樺太の、北緯50度線のことである。

 このあと、神沢利子の『流れのほとり』へと読みつないだ。描かれているのは昭和初期の樺太。主人公の小学生、麻子の一家は炭坑技師の父親の転勤で内地から移り住んだ。樺太鉄道の北端の駅からさらに北へ、内川という川のほとりの村で暮らした麻子らきょうだいの物語だ。児童文学者である著者が子供時代を過ごした樺太。北辺の地で厳しくも力強く生活した日々を麻子の物語で感受性豊かに描いている。

 たとえば森の中へフレップという苔桃の実を採りに行ったり、氷上のアザラシにびっくりしたり、手製のスキーですべったり…。オタスの杜で先住民のオロッコやギリヤークの人たちを見かけたり、朝鮮人や中国人たちとのふれあいも大切な思い出だ。

 夏の終わり、一家は『サガレン』にも描かれていた「国境見物」に出かける。トラックに乗って軍用道路を走り、北緯50度線まで。ところが到着した途端、「ここが国境?」。道路に丸太が一本、横たえてあるだけで、傍らに標石があり、南面に菊の紋章、北面にはロシアの双頭の鷲の紋章が刻んであった。案内役の巡査に歴史を説明されたが、麻子は標石を見て不思議な気持ちを抑えられない。

 大自然の中で子供たちもたくましく生きていた。生き抜く知恵を持たざるを得ない時代だった。北の地に咲く柳蘭やはまなすの挿画が旅情を誘う、そんなやさしい本である。

 奈良市 吉岡順子 73

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